好きなだけキレさせるしかない

ただ、上司がキレてしまったら、もう仕方がありません。止めようとしても止まりませんし、何か言うと、火に油を注ぐことにもなりかねません。つらいかもしれませんが、好きなだけ吐き出させて、嵐が通り過ぎるのを待つしかありません。

傷つくようなことも言われるかもしれませんが、真に受ける必要は全くありません。「残念な人だな」「弱い犬ほどよく吠えるな」と思って受け流してください。「自分が上司になったら、絶対にこんな風にならないようにしよう」と、反面教師にするのです。

何度も続くなど、ひどい場合は、人事や総務の人に相談しましょう。くれぐれも、自分1人で抱え込まないようにしてください。

私も産業医として、こうしたキレる上司の相談はよく受けます。パワハラにつながり、降格されたケースも見ています。キレる上司が1人いるだけで、職場の雰囲気が一気に悪くなります。それで周りの人のパフォーマンスが下がったり、心身の調子を崩してしまったりすれば、会社としても大きな損失です。

なぜ「キレる上司」が増えるのか

こうした「キレる上司」が増えているのは、やはり誰もが、余裕がなくなってきていることが背景にあると思います。世の中の変化のスピードが速いので、自分が正しいと思っていたことが、どんどん陳腐化して通用しなくなっていく。そのために焦りが生まれ、不全感やストレスにつながりやすいのです。

また、人間の頭の処理能力は変わっていないのに、やらなければいけないことが増えすぎている。インターネットなどの発展によって大量の情報が瞬時に行き来するので、それだけ人間も瞬時に処理しなければいけなくなっています。どの職場も人手が足りず、誰もが時間に追われていて、頭を休ませられません。長時間労働や睡眠不足は、人をキレやすくしますし、パワハラも生まれやすくなります。

会社としても、キレる上司を個人の問題と捉えるのではなく、職場全体で取り組むべき課題と考えるべきではないでしょうか。キレる社員をできるだけ生まないためには、どんな環境が必要なのか、考えてほしいと思います。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。