支配欲や自己愛の強い人はキレやすい
いわゆる「キレる」人がキレるきっかけとしてよくあるのが「自分の思い通りにならないから」です。そして、自分の思い通りにしたいという気持ちの背景には、相手に対する支配欲や、自分の気持ちを何よりも優先させたいという自己愛があります。キレる人は、支配欲や自己愛が強い人が多いのです。
そんな人が上司になると、「部下のマネジメントとは、自分の意見に従わせることだ」と勘違いすることが多い。部下が自分と違う意見を言ったり、反論してきたり、自分がイメージした通りのスピードで仕事を進められていなかったりすると、「自分の思った通りに部下が動かない」とキレるのです。
「キレる上司」が褒めるとき
また「キレる上司」は、部下の成功を「条件つき」でしか評価しない傾向があります。部下の成果が自分の実績につながっていれば「よくやった」「ありがとう」と褒めるけれど、関係なければ何のリアクションもしないのです。
例えば、部下が何かのプロジェクトを成功させたとします。初めて一人で責任ある仕事をやり遂げたのですから、本来であれば上司は「頑張ったね」「よくやったね」と喜び、本人の頑張りを褒めたりするでしょう。しかし、キレる上司の場合は、部下の成長を喜んだりすることはほとんどありません。部下の実績が自分の評価のプラスになれば褒めたりしますが、部下の成長は見ていないのです。
ですから、上司がどんな時に褒めるかを見ると、キレる上司かどうかを見極めるポイントになります。部下の成長を一緒に喜んだり、褒めたりしない。部下の実績が自分のプラスになるときだけ褒めるという上司は、支配欲や自己愛が強く、少しでも自分の思い通りにならないとキレるタイプの可能性が高いでしょう。
プレーヤーとしては優秀な「キレる上司」
厄介なのは、こういったタイプの上司は、プレーヤーとしては優秀なことが多いのです。支配欲や自己愛の強さは、自分が成果を出すために周りを巻き込む力、成果へのこだわりや、評価されたいという気持ちの強さなどにつながることがあるからです。
そして、結果をしっかり出しているからこそ、上の立場になるわけですが、上司に求められる、人を育て、成長をともに喜ぶ力を身に付けてはいません。むしろ、これまで結果を出してきたからこそ、自分のやり方へのこだわりが強く、自分が思う通りに行動しない部下へのダメ出しが激しくなってしまいます。少しでも期待から外れた行動をとると、イライラしてキレてしまうのです。
「指示したことしかやらない」と不満
こうした、支配欲や自己愛の強い上司は、よく部下について「○○は、言ったことしかやらない」といった不満を言います。「指示したことしかやらない」「指示通りのことしかできない」「気が利かない」「指示待ち人間だ」といった評価をすることも多い。部下に対して絶えず「もっと察して、いろいろサポートしてほしい」という気持ちを抱えているからです。
部下は、「指示されたことをやっているから問題ないはずだ」と思っているのに、上司の側では、「言ったことしかやってくれない」と、勝手に裏切られた気持ちを持つのです。この溝が埋まらないために、上司の側では不満をつのらせ、いよいよキレてしまうのです。
「だったら、ちゃんと言葉で指示すればいいのに」と思いますが、こうした自己愛の強い上司は部下に対し、自分が言葉にしていないことまで察して行動して満足させてほしいという勝手な期待を持ちます。そして、周りに対して勝手な期待、相手に伝わらない期待を持っては「期待通りにやってくれない」とがっかりするので、心が満たされない「不全感」を持ち、ストレスを抱えやすくなります。
そこで、ストレスを解消するためのガス抜きの方法を自分で持っていればいいのですが、そのレパートリーが少ないと、そのストレスはどんどんため込まれてしまいます。そして我慢ができずに弱者、つまり部下に向けられて「キレる」という行動で当たり散らすのです。
こうした不全感は、自分のコンプレックスを刺激されやすい相手だと、さらに強まります。例えば、部下のほうが学歴が高い、部下のほうがITに詳しい、など、自分の自己愛が傷つけられると、ストレスを抱えやすくなり余計にキレるわけです。
「キレる上司」から身を守る
ではこういう上司から自分の身を守るためには、どうすればよいのでしょうか。
まずは、「この人はキレる上司だな」と感じたら、できるだけ接触頻度を減らすようにしましょう。特に、対面やリアルタイムのやり取りがあると、それだけキレられる可能性が高くなるので、できるだけ対面を避けて在宅勤務を織り交ぜたり、メールやチャットなどでのやりとりを増やすほうが安全です。
また、こうしたキレる上司の行動は、パワハラになる可能性があるので、メールや、録画・録音が可能なオンラインでのやりとりで、記録を残すようにするといいでしょう。
好きなだけキレさせるしかない
ただ、上司がキレてしまったら、もう仕方がありません。止めようとしても止まりませんし、何か言うと、火に油を注ぐことにもなりかねません。つらいかもしれませんが、好きなだけ吐き出させて、嵐が通り過ぎるのを待つしかありません。
傷つくようなことも言われるかもしれませんが、真に受ける必要は全くありません。「残念な人だな」「弱い犬ほどよく吠えるな」と思って受け流してください。「自分が上司になったら、絶対にこんな風にならないようにしよう」と、反面教師にするのです。
何度も続くなど、ひどい場合は、人事や総務の人に相談しましょう。くれぐれも、自分1人で抱え込まないようにしてください。
私も産業医として、こうしたキレる上司の相談はよく受けます。パワハラにつながり、降格されたケースも見ています。キレる上司が1人いるだけで、職場の雰囲気が一気に悪くなります。それで周りの人のパフォーマンスが下がったり、心身の調子を崩してしまったりすれば、会社としても大きな損失です。
なぜ「キレる上司」が増えるのか
こうした「キレる上司」が増えているのは、やはり誰もが、余裕がなくなってきていることが背景にあると思います。世の中の変化のスピードが速いので、自分が正しいと思っていたことが、どんどん陳腐化して通用しなくなっていく。そのために焦りが生まれ、不全感やストレスにつながりやすいのです。
また、人間の頭の処理能力は変わっていないのに、やらなければいけないことが増えすぎている。インターネットなどの発展によって大量の情報が瞬時に行き来するので、それだけ人間も瞬時に処理しなければいけなくなっています。どの職場も人手が足りず、誰もが時間に追われていて、頭を休ませられません。長時間労働や睡眠不足は、人をキレやすくしますし、パワハラも生まれやすくなります。
会社としても、キレる上司を個人の問題と捉えるのではなく、職場全体で取り組むべき課題と考えるべきではないでしょうか。キレる社員をできるだけ生まないためには、どんな環境が必要なのか、考えてほしいと思います。