なぜ幼稚園児のような雑用をさせるんですか

自ずと新人の指導も基礎から丁寧に教える必要がある。とくに人とリアルで接した経験が少ない新人だけにじっくりと育成する必要もある。完全試合を達成したプロ3年目のロッテの佐々木朗希選手の人材育成法も話題になっている。1年目は1軍の試合には出ず、体づくりに専念し、2年目もフル出場しないで経験を積ませるなど育成計画に基づいてじっくりと育成し、3年目で快挙を成し遂げた。こうした“じっくり育成法”を企業も学ぶべきという声も多い。

ところが成長志向の「ゆるブラック」嫌いにはがまんできない人もいる。前出のサービス業の人事部長はこう語る。

「会社としては育成計画に基づいて各現場で指導しているが、新人の中には『僕は即戦力です。早く実践で使ってください』と言う人もいる。中には『どうしてこんな幼稚園児みたいな雑用をさせるんですか』と、上司に文句を言う新人もいる。仕事ができる、できないは別にして、早く仕事をさせてくださいと、どこか焦っているタイプが一定数いる。逆に優秀だが、やさしく教えないといけない新人もいるので、いちいち対応しても切りがないし、新人の見極めが本当に難しい」

工具の名前も知らないのに「早く一人前になりたい」

会社としては新人の機嫌を損ねて早期離職につながることを心配しているが、かといって新人に合わせるのも大変だ。

前出の建設関連会社の人事部長も「現場の責任者が新人にスパナを持ってこいと言っても、全然違うものを持ってきたりする。大学の工学部を出ても道具の名前すら知らないと嘆いていたが、それでいて早く一人前になりたいという志向が強い。気を遣うのが面倒なので多めに採用し、早く辞めるのが3割いてもしょうがないではないかという現場責任者もいる」と語る。

一般的に新入社員については、1~2年目は先輩や上司の下で育成し、3年目に独り立ちの経験をさせ、4年目に一人前になると考えている企業が多いのではないか。しかし新入社員の意識は違う。産労総合研究所の「2020年3月卒業予定者の採用・就職に関するアンケート」によると、「入社後どのくらいの期間で一人前になれると予想しているか」の質問では、約半年以内が1割、約1年が17%、約2年が15%、約3年が34%となっている。つまり1年仕事を経験すれば2年目に1人前になると考えている新人が4分の1も存在する。

この人たちが「ゆるブラック」嫌いであるかどうかはわからない。とにかく早く成長して一人前になり、安定したキャリアを築きたいというZ世代の焦りのようなものを感じる。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。