気づいたらゆでガエルになっている「ゆるブラック」企業
文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所の平野恵子所長は「世の中が大きく変わることを目の当たりにし、変化に対応できないと結局、食べてはいけないといった不安感や危機感を強く抱いた学生が多い。会社を選ぶときの見方も変化し、裕福な生活より、ほどほどでやっていける働き方でよいと思う学生がいる一方で、自分自身が実力をつけて成長しなければと、成長できる環境を求めるなど、個々人の安全戦略として危機感の発露する形態が多様になっている」と指摘する。
実はコロナ禍で増幅された不安感や危機感の発現形態として、成長志向の強い「ゆるブラック」嫌いも顕著になっている。「ゆるブラック」とは、残業やストレスのないホワイトな労働環境を与えられ、実力を養う経験やストレッチもなく、成長実感も持てずにゆでガエルにされてしまう企業のことだ。一方、“ほどほど”の安定志向の人も共存し、こうしたある意味で二極化したZ世代の育成に苦慮している企業も少なくない。
Z世代仕様の新人教育体制
2、3年前からZ世代仕様ともいえる新人育成体制を敷いている企業も多い。管理職研修などで「若手社員とのコミュニケーション講座」を開いたり、リスニングやコーチング教育を行うなど新人に相当気を遣っている。さらに“上司ガチャ”を極力減らすために、新人の配属先のOJTの指導役や上司とのマッチングにも配慮している。
サービス業の人事部長は「適性検査の結果を参考にして『この新入社員は消極的な性格なので、気性が激しい上司だと問題が起きそうだから』と判断し、配置しないようにしている。あるいはこの新人だったら耐えられるかなと、日頃の上司の指導のやり方や性格を見て、新人との相性を見て決めている。以前に比べて今は格段に気を遣っている」と語る。
しかしそれでも上司ガチャ問題は発生する。建設関連会社では、誰からも慕われている現場の管理職の下に新人を3人配置した。3人に担当させていた仕事で新人の一人がミスをしたことで作業が滞り、管理職が3人を叱りつけたが、新人の1人から人事部に「どうして私が叱られなければいけないのか」と文句を言ってきたという。
同社の人事部長は「管理職に聞くと、1人だけを傷つけまいと連帯責任にしたつもりだったらしい。今の新人は人に叱られたという経験がない。とくに優秀な大学出身者に多い傾向がある。優秀だからこそ失敗や挫折が少なく、ましてや自分に責任はないのに集団で叱られることの理不尽さを強く感じるのだろう。注意や指導の仕方もかなり気を遣わないといけなくなっている」と語る。