聞き役に徹する
2つ目は「共感しながら聞く」ことです。これは、それほど難しいことではなく、ただ聞き役に徹するだけでよいのです。部下の話をさえぎらずに聞き「なるほどね」「そういう状況なんだね」「そんなふうに考えているんだね」と、否定しないで受け入れます。
つい、「自分は上司なんだから、教えたり導いたりするようなことを言わなくては」「せっかく“相談”してきてくれたんだからなにか助言をしないと」と考えてしまい「もう少し頑張れ」と励ましたり、「そんな時はこうするといいらしいぞ」とアドバイスしたりする人は多いのですが、避けましょう。もちろん「私が若い時も、ストレスで眠れなくなったことがあるけれど、こんな風に乗り越えた」などと説教するのはもってのほかです。
上司の役割は、部下の話をじっくり聞き、本人が自分の考えや気持ちを言葉にするのを手伝うことです。話すことで、部下の方は、自分の考えや気持ちを整理することができます。
ただ注意してほしいのが、必要以上に部下の気持ちに寄り添いすぎて、自分までしんどくなってしまうケースです。部下の悩みを自分で解決できそうにないと思ったら、すぐに産業医や外部の精神科医につないでほしいですね。
熱心な上司ほど、「部下のことは自分だけで解決しなければいけない」と抱え込んでしまうことが少なくありません。しかし、それは部下にとっても解決になりません。早めに産業医に相談するなど、専門家につないでほしいと思います。
不調に気づきにくくなっている
部下のメンタル不調は、できれば上司がいち早く気づいてあげるとよいですが、実際はなかなか難しい。なぜなら、まず当事者である部下自身が、調子が悪くても気づかれないように隠そうとするので、なかなかわかりません。
また、通常であれば、パフォーマンスが落ちて残業が増えていたり、夜眠れないために居眠りが多くなったり、調子が悪そうだったりすれば「おかしいな」と思うかもしれませんが、テレワークだと、いくら具合が悪くても、期日までに成果物ができている限りは疑う余地がありません。このため、本人が病院に行って診断が出てから上司に相談するというパターンの方が、圧倒的に多いです。
そうなるとやはり、部下がメンタル不調を隠さずにすむ、具合が悪いときはすぐに上司に相談できるような雰囲気づくりが重要になります。相談を受けたり、少しでも調子が悪そうな様子があったりした場合には、場所と時間を確保してじっくり話を聞く姿勢を見せ、聞き役に徹して共感しながら話を聞いてあげてほしいと思います。
構成=池田純子
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。