座りっぱなし、ストレス、睡眠不足、肥満が引き起こす炎症

さらに重要なのが、現在では炎症を起こす要因が昔と同じではないことだ。人間の歴史のほとんどの期間、炎症は細菌やウイルスによる感染や怪我で起きていた。それが今では現代的なライフスタイルが炎症を引き起こしている。

長いことじっと座っていると筋肉や脂肪組織の炎症につながることが判明しているし、長期的なストレス(日や数週間ではなく、数カ月や数年という期間)も全身の炎症の度合いを高めるようだ。睡眠不足や環境汚染物質にも同じ作用がある。加工食品は胃腸の炎症につながるし、肥満も脂肪組織の炎症につながり、喫煙は肺や気道の炎症を引き起こす。

歴史的に炎症を起こしてきたもの──細菌やウイルスそして怪我は、ほとんどの場合、一過性のものだ。しかし現代の要因──ずっと座っていること、肥満、ストレス、ジャンクフード、喫煙、環境汚染物質などは長く続く傾向がある。体内のプロセスとして歴史的には短期的だった炎症が、今では進化で適応してきたよりも長く続くようになった。

身体にとっては「炎症は炎症」

身体が炎症の原因を見分けられれば、免疫系を無駄に起動させなくてすむのだが、問題は身体が「炎症は炎症」と捉え、現代のライフスタイル要因を細菌やウイルスに攻撃されているのと同じように解釈してしまうことだ。

身体はつまり、炎症が感染によるものなのか現代のライフスタイル要因によるものなのかを見分けることができない。

同じことが脳についても言える。現代の炎症要因でも、細菌やウイルスに攻撃されている時と同じシグナルが脳に送られてしまう。そのシグナルが長く続きすぎると──そして現代の炎症要因というのは長期的なものだから──脳は「命が危険にさらされていて、常に攻撃を受けている!」と誤解してしまう。そこで脳は気分を下げるという調整を行い、私たちを引きこもらせようとする。精神的に立ち止まらせ、その状態が長く続く。何しろ現代の炎症要因というのは自然に消えてくれることはないのだから。

結果として長期的に精神が停止状態に陥る。つまり私たちがうつと呼ぶ状態だ。このように、うつも炎症に起因する病気のリストに入ってくるのだ。

現代最大の炎症要因、ストレスと肥満

現代における最大の炎症要因、長期的なストレス肥満を詳しく見てみよう。身体の最も重要なストレスホルモン、コルチゾールにはエネルギーを動員する役割がある。

例えば犬に激しく吠えられるとコルチゾールのレベルが上がり、尻尾を巻いて逃げられるように、筋肉にエネルギーが送られる。しかし危険が過ぎ去るとコルチゾールには別の役割がある。体内の炎症を鎮めるというものだ。つまりコルチゾールは炎症のスイッチを切るタイミングを制御している。

頭の中がごちゃごちゃになってしまって落ち込んでいる女性が顔を覆っている
写真=iStock.com/Doucefleur
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