「発達障害では?」と思ったら産業医に相談を

このように、部下がトラブルや失敗を重ねる場合、その原因は、本人のヤル気や能力のせいではなく、発達障害の特性によることがあります。そしてそれは、怒ってなおるものではありません。

まずは本人と対話し、何が得意か、何が苦手かをしっかりヒアリングして、苦手部分をフォローするための工夫をします。

ただ、本人が自分の特性を理解していないこともあります。すると、上司や周囲が助けたいと思っても、なかなか支援ができません。その場合も、上司が直接本人に「発達障害だと思うから病院で診断を受けてみなさい」などと伝えるのは避けましょう。発達障害かどうかは、やはり専門家でないとわかりませんし、本人もショックを受け、上司との関係性がこじれる可能性があるからです。

まずは上司から産業医に相談し、その人の状況を説明して、どうすればいいか聞いてみましょう。その時は、職場でどんな困ったことが起きているのか、具体的な事例をメモしておいて説明すると、産業医も状況を理解しやすいでしょう。

発達障害の可能性が高いと判断された場合は、産業医から本人に、精神科を受診することを勧めてもらいます。もし本人が産業医との面談を拒む場合は、業務命令として面談を勧めることも考えましょう。

人にはそれぞれ得手・不得手があります。特性を理解したうえで、どんな仕事が向いているのか、どんな工夫をすれば本人も周りもスムーズに仕事を進められるのか、本人と産業医、上司が一緒に考えることが必要です。そして、誰もが働きやすい職場環境をつくってほしいと思います。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。