根拠をしっかり確認しよう

ひと昔前、塗るだけで痩せる効果があるというクリームがはやったことがあります。海外のハイブランドからもそのような商品が販売され、入手困難になったのです。今同じ商品が売れるでしょうか?おそらく売れません。なぜなら、多くの人が「塗るだけで痩せるなんてありえない」と知っているからです。つまり、みんなが消費カロリーと摂取カロリーのバランスで体重が維持されることや、脂肪細胞が、皮膚から塗ったクリームで溶けないだろうことを知っているからです。

科学的には当たり前とされていることも、一般的な知識としてまで根付いていないことが多くあり、情報リテララシーの低さがとんでもないビジネスを生み出すのです。

一方で、人には、プラセボ効果という、実際に効能がなくてもそれをやることで効果があるような気分になることもあり、効果があると感じている人を否定するつもりはありません。ただ、まずは、宣伝文句や口コミに惑わされることなく、どうしてそんなことができるのか?という根拠をちゃんと確認し、正しい情報を手に入れることが必要です。

<参考文献>
・Iram T, Kern F, Kaur A, Myneni S, Morningstar AR, Shin H, Garcia MA, Yerra L, Palovics R, Yang AC, Hahn O, Lu N, Shuken SR, Haney MS, Lehallier B, Iyer M, Luo J, Zetterberg H, Keller A, Zuchero JB, Wyss-Coray T. Young CSF restores oligodendrogenesis and memory in aged mice via Fgf17. Nature. 2022 May;605(7910):509-515.
・ Katsimpardi L, Litterman NK, Schein PA, Miller CM, Loffredo FS, Wojtkiewicz GR, Chen JW, Lee RT, Wagers AJ, Rubin LL. Vascular and neurogenic rejuvenation of the aging mouse brain by young systemic factors. Science. 2014 May 9;344(6184):630-4.
・Castellano JM, Mosher KI, Abbey RJ, McBride AA, James ML, Berdnik D, Shen JC, Zou B, Xie XS, Tingle M, Hinkson IV, Angst MS, Wyss-Coray T. Human umbilical cord plasma proteins revitalize hippocampal function in aged mice. Nature. 2017 Apr 27;544(7651):

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。