事業者はトラブル対応にどこまで責任をもつべきか

今回の児童福祉法改正はその1つの成果ではあるが、厚労省や内閣府も、マッチング型シッターの監督の仕方を模索している。

そもそも、CtoCとも呼ばれるマッチングプラットフォームは、あくまでユーザーとサービス提供者をマッチングする場で、プラットフォーム運営会社がサービスに対する直接的な法的責任は取らない。採用や教育、トラブル対応にコストをかけずに、利用料の一定割合を利益にできる仕組みだ。

しかし、そのようなマッチング型事業者が国の補助券事業の対象となったのは、幼保無償化後の流れで補助金の対象として、個人のシッターを対象にするかどうかが内閣府内で議論された際、個々人で補助金事業申請はできない代わりに、保険の加入なども含めた「取りまとめ役」としてマッチング型事業者を加えたという経緯がある。

このような「取りまとめ役」としての期待もあり、厚労省の専門委員会はキッズライン社を念頭に、「保護者、ベビーシッター双方から手数料等を徴収することなどにより収益を得ていること」「一部のマッチングサイト運営者は公的事業に関与していること」などを理由に、マッチング事業者も一定の責任を負うべきと結論付け、ガイドラインなどを強化している。

マッチング事業者のモラルが問われる

内閣府のシッター補助券については、シッターを依頼するための補助券を使いながら家事代行など目的外利用をしている家庭があるという情報もある。本来、シッターはそのような依頼があった場合は依頼を断り、マッチング事業者に報告する責任がある。また事業者はそのような利用実態を把握した場合、補助金の返還を求める必要がある。

キッズライン側は目的外利用の有無について筆者の取材に「弊社では内閣府補助券の目的外利用はお断りしておりますし、万一そのような事実が発覚した場合には補助金のお支払いはお断りし、不正利用が発生しないようにしております」と回答している。

子育ての社会化を進めるうえで、多様な選択肢を安全に増やしていくためには「取りまとめ役」としての事業者のモラルも問われることになる。

中野 円佳(なかの・まどか)
ジャーナリスト

1984年生まれ。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社入社。金融機関を中心とする大企業の財務や経営、厚生労働政策などを担当。14年、育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に提出した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』として出版。15年から東京大学大学院教育学研究科博士課程、フリージャーナリスト。キッズライン報道でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞受賞。22年から東京大学男女共同参画室特任研究員。