1カ月でも繰り下げ可能

「5年も繰り下げられない……」という声も聞きますが、繰り下げ受給は5年単位と決まっているわけではなく、1カ月単位でも可能です。意外と知られていませんが、公的年金は受給資格ができたときに、受け取りの申請をしてはじめて受け取れることになっており、受け取りの申請をしなければ、年金は支給されません。つまり、何年繰り下げるかを前もって決める必要はなく、「受け取りたくなったときに受給の申請をすればいい」のです。

また繰り下げているものの、健康に不安が生じて長生きする自信がなくなった際などは、それまでの分を一括で受け取ることもできます。額は増えませんが、受け取れるはずだった分を受け取り損ねた、ということは避けられます(ただし、請求していなかった期間分は雑所得となり、税額を計算し直すことになります)。

5年繰り下げの場合、82歳まで12年間受け取ると「得」になる

何歳まで受け取れば得か……と考える人も少なくありません。たとえば5年繰り下げれば年金額は42%増えますが、繰り下げた期間の年金はゼロですから、増額した分が、ゼロの期間分を上回らないと、得したことにはなりません。5年間繰り下げた場合は、おおよそ12年が損益分岐点になり、受取期間がそれより長くなればなるほど、繰り下げたほうが得になります。とはいえ、年金は長生きに備える保険であり、損得という尺度で測るのが適しているとは思いません。長生きしても大丈夫なように、できる範囲で繰り下げ、額を増やすことを考えるといいでしょう。

年金額が多くなると税金や社会保険料の負担が重くなるケースもあります。年金の増え方の方が大きいですが、年金額によっては、医療費や公的介護保険サービス利用時の自己負担割合が高くなる可能性があることも念頭においてください。

井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)

関西大学卒業。社会保険労務士。国民年金基金連合会理事。『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください 増補改訂版』(日経BP社)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)、『私がお金で困らないためには今から何をすればいいですか?』(日本実業出版社)など著書多数。