ニーチェからのアドバイス

退屈な人生を生き、何の感動も覚えないあなた。

ニーチェの提唱する「永劫回帰」メソッドを試してみてはどうだろう。

生活のなかの一瞬を切り取ってみる。バスに座っているとき、愛する人にキスをしようとするとき、何かを理解したとき、好きな人からの連絡を待つうちに電話の前で眠ってしまったとき、さて、あなたはその瞬間が永劫回帰、つまり、「永遠に繰り返されてもいいくらい」その瞬間を愛しているだろうか。

シャルル・ぺパン(著)永田千奈(翻訳)『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者』(草思社)
シャルル・ぺパン(著)永田千奈(翻訳)『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者』(草思社)

もし、答えがノーなら、それは生きる価値のない時間だ。こうして、少しずつ、永劫回帰してもいい時間と無駄な時間が仕分けされていく。これを繰り返すうちに、少しずつ永遠に繰り返す価値のある大切な時間だけが残り、充実した日々を送れるようになる。

ニーチェの「永劫回帰」は充実した人生を生きるための方法として有効なのだ。もちろん、永遠に生きつづけたいほどの一瞬はそう簡単にあるものではない。また、確かにこのメソッドをとことんやりつくしていけば、完璧に濃密な瞬間だけを生きることになるが、それはそれで矛盾をはらんでいる。充実した一瞬は、その前後の時間との対比によって、それが充実した時間であると判断できるのだから。

つまり、ニーチェのやり方は、部分的にしか実効性がない。それでもなお、「永劫回帰」という発想は、人生の様々な時間、雑多な作業を価値づけるのに役立つ。どんな時間の過ごし方が最も理想に近い、充実した時間かという問いかけだ。

ニーチェはあなたの人生を充実した濃密なものにする助言者

実は、ニーチェの永劫回帰をこんなふうに読み解いてみせたのは、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズ〔1925~1995〕である〔ジル・ドゥルーズ『ニーチェ』湯浅博雄訳、ちくま学芸文庫〕。研究者のなかには異論を唱える者もいる。彼らにとって「永劫回帰」は、善も悪も含んだすべて、退屈な時間も充実した時間もすべてが永遠に繰り返されるものだった。あくまでも、ドゥルーズのように、永劫回帰の意味を「選択的」に考えるのならば、という条件付きではあるが、ニーチェはあなたの人生を充実した濃密なものにする助言者となりうるのだ。

ニーチェ
1844~1900
反哲学、反ドイツ的なドイツの哲学者。「神の死」と「永劫回帰」の提唱者
シャルル・ぺパン(Charles Pépin)
哲学者

1973年、パリ郊外のサン・クロー生まれ。パリ政治学院、HEC(高等商業学校)卒業。哲学の教鞭をとる一方、教科書、参考書のほか、エッセイや小説を多数執筆。映画館で哲学教室を開いたり、テレビやラジオ、映画に出演している。

永田 千奈(ながた・ちな)
翻訳家

東京都生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。主な訳書にルソー『孤独な散歩者の夢想』、ぺパン『考える人とおめでたい人はどちらが幸せか 世の中をより良く生きるための哲学入門』などがある。