「欲」は持っても、「我欲」は持つな

多くの悩みは「執着」に端を発することが多いように思います。Aさんも、執着があるから手放せないのではと感じました。執着をなくすことで楽になることができるはずです。

この執着というのは、誰かを深く思うこと、愛情と混同してしまいやすいものでもあります。

似て非なるこの感情の決定的な違いは、そこに自分本位な“我欲”や“おごり”があるかどうかです。世間では、元交際相手に執着して危害を加えるといった、悲しいストーカーの事件をよく耳にします。これは、「自分の方が相手のことをよく知っている。だから相手の言うことは無視してもいいんだ」といった“驕った”ふるまいですし、相手を支配したいという“我欲”に他なりません。

「欲」はあってもいいと思います。例えば、「意欲」という言葉。何かを突き詰めるために、意欲を持って取り組むのはよいことです。ただ、「私」をすべてに優先するようになると「我欲」になってしまいます。

今月のひとこと
今月のひとこと

私が毎日あげている、妙法蓮華経の自我偈じがげというお経の中に、「我此土安穏がしどあんのん 天人常充満てんにんじょうじゅうまん」という言葉があります。これは、私たちが住むこの世は安らかであり、常に天女や神々、仏様が充ち満ちており私たちを守ってくださっているという意味です。

職場や学校などさまざまなところでモラハラは起きています。それが、自分が愛した男性から受けるモラハラであれば、なおさら耐え難いことでしょう。しかし、家庭内のモラハラの場合は、ほかの家族や周りの人間関係にまで影響が及びますし、すぐに答えを出すのが難しいケースもあるでしょう。

そんな時は、「我此土安穏 天人常充満」と唱えてみてください。私もつらい目に遭った時、自分はこの先、きっと幸せになると信じて、この言葉を唱えました。仏様は、頑張って困難を乗り越えようとしているあなたのことを、きっと見てくださっています。

そうして心を落ち着けたうえで、自分が執着してしまっているものがないか、自分の成長に不必要な間引くべきもの、断捨離すべきものがないか、考えるようにしてほしいと思います。

構成=山脇麻生

髙橋 美清(たかはし・びせい)
天台宗照諦山心月院尋清寺住職

1964年、群馬県生まれ。短大在学中からモデルとして活動した後、フリーアナウンサーに。群馬テレビのレポーター、日本テレビ「おはよう天気」キャスター、競輪のテレビ中継の司会者のほか、フィニッシングスクールを主宰し企業などのマナー研修を行う。2011年に得度、2017年に比叡山延暦寺で修行を行い、正式な天台宗僧侶となる。2020年12月、群馬県伊勢崎市に天台宗照諦山心月院尋清寺を建立。