もうひとつ、「問題意識をもち続ける力」も欠かせません。取材して終わり、ではなく、絶えず関連取材を続けていく。性的暴行を受けたとして訴訟中のフリージャーナリスト、伊藤詩織さんとは、もう5年ほどやりとりを続けています。
私の駆け出しのころの話ですが、ある男性官僚を女性記者たちが囲む懇親会があり、その関係性に違和感を抱いたこともありました。でもとにかく記事にするネタが欲しかったから、結局声を上げることはなかった。だからセクシャルハラスメントに関しては、私たちの世代が勇気を出していれば、という深い自責の念があります。でも問題意識をもち続けていれば、声が束になり、大きなうねりとなって、行動を起こす人が現れる。そんな力も信じられるようになりました。
相手の事情を考えればリスペクトが生まれる
仕事の幅が広がり、各所で講演会を行うことがあります。そこで「伝える」ために意識しているのは、意外かもしれませんが「笑わせる」こと。
話がシリアスだからこそ、某政治家のモノマネを挟むとすごくウケますし(笑)、熱心に聴こうとしてくれます。
結局人は、楽しそうに活動している姿に引かれるものなんですよね。
もちろん、ネガティブな質問を受けることもあります。その場合、まず笑顔で「ありがとうございます」と受け止め、「とても貴重な意見です」と温かく返すようにしています。これは政治家の立ち居振る舞いから学んだことかもしれません。
こうして経験を重ねるにつれて、立場が敵対している人と向き合ったときも「この人にも事情がある」と深く想像を巡らせるようになりました。
すると相手に対するリスペクトが生まれ、問題意識を共有しやすくなる気がしています。
この複雑な世の中で勧善懲悪などないとするならば、さらに活発に意見を交わし、隠された事実に切り込んでいきたい。それが私の生きる道なのです。
伝え方賢者の愛用品
左/最近はオンライン記事や配信のため、記者自ら動画撮影することも多く、機材を持ち歩く機会が増えている。右/不規則な日々には、エスティローダーの名品「アドバンス ナイト リペア」が強い味方に。
構成=本庄真穂 撮影=望月みちか
1975年生まれ。東京新聞社会部記者。2017年6月から官房長官の会見に出席、質問を重ねる姿が注目される。同年、平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞受賞。『新聞記者』『報道現場』(ともに角川新書)、『ジャーナリズムの役割は空気を壊すこと』(集英社新書)ほか著書多数。