個人向けプチプチ発売へ

当時の社長は創業家の2代目。1994年に、それまで「エア・バッグ」だった商品名を「プチプチ」に変えて商標登録した人物で、大変なアイデアマンだったという。

「商品名を変えたときは、社内のベテラン社員から『プチプチなんて恥ずかしくて口に出せない』と反発の声が上がったと聞いています。でも、商品が一般の方々にも認知されるようになったのは、このネーミングがあったからこそだと思います」

プリプチ文化研究所所長としても活躍している
プリプチ文化研究所所長としても活躍している(写真提供=川上産業)

2代目社長はその後も「プチプチの日」制定、プチプチの活用事例を集めた「プチプチ文化研究所」の立ち上げなど次々と斬新なアイデアを出し、杉山さんはその実行役になった。同研究所は立ち上げ時こそひっそりとした存在だったそうだが、今ではユーザーへの発信拠点として同社の看板的存在になっている。

キャリアに最初の転機が訪れたのは入社3年目のこと。自ら発案して、社内初のECサイト「プチプチSHOP」を立ち上げたのだ。ネットオークションの普及で、公式サイトに一般のお客様から「発送用にプチプチを少量だけほしい」といった問い合わせが来るようになり、それなら直接個人に販売できる場をつくろうと思い立ったのが始まりだった。

(左)つぶすためだけに開発された「プッチンスカット」(右)プッチンロールはミシン目があり、簡単に切り離せる。
写真提供=川上産業
(左)つぶすためだけに開発された「プッチンスカット」(右)プッチンロールはミシン目があり、簡単に切り離せる。

川上産業は、商品を企業に販売するBtoBで業績を上げてきた会社。個人に直接売るBtoCは初のことだった。営業担当者からは心配や反対の声があがったが、杉山さんは販売代理店の邪魔をするものではないこと、販売対象を個人に絞ることなどをしっかり説明して了解をとりつけ、ついに「プチプチSHOP」をオープンさせた。

これに伴って、新商品も企画開発した。プチプチを卓上サイズにして、切り離しやすいようミシン目を入れた「プッチンロール」、ミシン目で切り離すと小さなバッグ状にした「プッチンバッグ」、プチッとつぶす楽しさを味わうためだけの「プッチンスカット」の3種類を用意した。

社内で大型設備投資をどう説得したか

新商品のおかげで今まで直接リーチ出来なかった一般の顧客から直接意見が届くようになり、これを受けて数年後にはハート型の「はぁとぷち」も発売した。ただ、こちらは金型からつくらねばならず、多大な設備投資が必要だった。採算がとれないのでは? という声も上がったが、最初に発売した3種類の売れ行きが好調だったこと、購入者から好評の声が届いていたこと、今までほとんどなかったメディアからの取材実績が説得材料になった。

ラッピング用に喜ばれる「はぁとプチ」
ラッピング用に喜ばれる「はぁとプチ」(写真提供=川上産業)

「自分の主観だけでなく、売り上げやお客様の声という客観的事実を伝えられたのが大きかったと思います。本当に売れるのかと聞かれたときには、絶対売れますって言い切っちゃっていましたね(笑)。『このアイデアを先にライバル企業にやられたら悔しいですよね』とも言いました」

発売後、「はぁとぷち」は見た目のかわいらしさからチョコレートメーカーや化粧品メーカーでも採用され、自らの買い物時に目に触れるようになったほど世の中に拡がった。社内を説得し、工場と何度もやりとりしながら実現させた、最初の成功体験だった。