10代で看護師になった池田きぬさんは、80年間看護師として働き続けている。親の介護が重なったときも辞めずに働き続けた。そんな池田さんが今、「辞めたい」という後輩にかける言葉とは――。

※本稿は、池田きぬ『死ぬまで、働く。』(すばる舎)の一部を再編集したものです。

仕事をする限り、きちんとやる

若い人たちの仕事は、手際がいいですね。見ていて、とても気持ちがいいし、元気をもらえます。

私もみなさんのようにキビキビ動けたらいいですが、なかなかそうもいかない。でも、年寄りだからと甘えてはあかんですね。年齢を言い訳にしたらいけない。仕事をする限りはきちんとやりきらないと。

「年をとっているからあかんな」と思われても、しゃくやし(笑)。

社長さんは、年齢関係なしに仕事に対してお給料をくださるので、みなさんと同じ時給をいただいています。だからこそ、「しっかり働かないと」という気持ちもあります。

入居者さんの様子はこまめにメモに記録する。
撮影=林ひろし
現在勤務するサービス付き高齢者向け住宅で。入居者さんの様子はこまめにメモに記録する。

若い人のようなスピードを出せないのは、しかたがない。自分のペースでさせてもらっていますが、心がけているのは「ミスをしない」こと。

どの入居者さんにどんな看護をするか、取りこぼしがないように、細かくチェックしています。看護が終わった後も、体温や血圧などバイタル数値はもちろんのこと、施した措置や入居者さんの様子、気になったことなどをすぐにメモします。

忘れたらあかんので。あとで看護記録をまとめるとき、記入漏れがないように。

「しんどい」と思っても口には出さない

施設でする看護のひとつは、胃ろうです。食事がとれない入居者さんに、朝昼晩と看護師が行います。チューブが外れないように、手で押さえてていねいに。大人しくさせてくれる人もいるし、手を動かす人もいます。チューブがずれてしまうと、中身があふれて洋服を汚してしまうことがあるのです。

その他の措置も、ていねいに、ひとつずつ確実にするようにしています。やり直しになれば、それだけ時間がかかってしまいますから。

自分より年下の入居者のほうが圧倒的に多くなった。
自分より年下の入居者のほうが圧倒的に多くなった。(撮影=林ひろし)

入居者さんへのバイタル測定、胃ろう、痰を取るなどの看護はずっとしてきたこと。手順や段取りも体にしみついているので、年齢を重ねた今も、スムーズに動くことができています。

80代はまだまだ体が動いたけれど、90歳を超えたら、仕事中に「えらいな(=しんどい)」と思うことも出てきました。でも、口には出さないし、休むことはしません。

担当する訪問看護が終わって時間ができたときは、体温計を拭くアルコール綿などの材料作りをしています。決められた時間内は、きちんと働くようにします。

手があいたとしても、仕事に関係ない雑談はしません。職場の雰囲気がだらしなくなるので、雑談は休憩時間にします。昔からずっと心がけてきたことですが、今の職場でも守っています。先輩として、職場の雰囲気作りには貢献したいと思っています。