稼ぎが多い女性の3つの変化

1つ目の変化は、「晩産化」です。

高所得層の女性ほど、第1子を30歳以降に出産するよう出産時期を遅くしていたのです。

学卒後の数年間は仕事でさまざまな経験を積む時期であり、出産によって職場を離れるコストが大きいと言えます。

そこで、出産時期をあえて遅らせ、キャリア中断による影響を緩和したのです。

2つ目の変化は、「労働時間の増加」です。

1990年以降、子持ちの働く女性の労働時間は増加傾向にあります。中でも高所得女性の労働時間の伸びが大きく、30歳以降に出産した女性ほど、週50時間以上働く割合が増加していました。

これは賃金上昇に直結し、子持ちの高所得女性ほど賃金プレミアムが発生する要因の1つになったと考えられます。

3つ目は、「パートナーとの同居」です。

パートナーが家事・育児に参加してくれる場合、働く子持ち女性は労働時間を増やすことが可能となり、子どもを持つことによる賃金低下を緩和できます。さらに、パートナーの所得によって世帯所得が増えるため、家事・育児を外注することも可能となります。

以上の点から、パートナーとの同居は子持ちで働く女性にとって重要な要因です。

高所得層の女性のうち、約80%がパートナーと同居しており、この割合は1990年から2019年の間でほぼ変化していませんでした。

これに対して、低所得層の女性ほどパートナーと同居している割合が低下し、シングルマザーとなる比率が上昇していたのです。

アメリカでは「ワーキングマザー」の姿が変わってきている

アメリカでは自分で高い賃金を稼げる女性を中心に、「キャリアと家庭生活の充実をつかみ取っている母親」が増えています。

もちろん、全体の比率で見ればまだまだ小さいものですが、注目すべき変化だと言えるでしょう。

また、この変化は日本の目指すべき労働市場の一つの形を示していると言えます。子どもの有無に関係なく、能力を発揮し、評価される労働環境です。

日本がそのような労働環境に到達するにはまだ長い道のりがありますが、共働き世帯が主流になりつつある現状において、避けては通れないでしょう。

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。