半年に一度見直す“あるシート”

馬渡さんは2021年1月に日本へ帰国。その後はフランスはじめ、中国、カナダ、タイ、インドネシアなど海外法人を取りまとめ、後方支援にまわることになった。フランスの学校も6年間の運営で黒字化し、現地スタッフに任せられるようになったことで、自分はまた新たな業務に挑戦したいと考えていた。そこで書き直したのが「SELFingシート」だという。

ヒューマングループは、経営理念に「SELFing(セルフィング)」を掲げ、すべてのステークホルダーへの提供価値と定義。社員一人ひとりにも「SELFing」を推奨しているという。「SELFing」とは、「なりたい自分」を明確にし、実現していくためのプロセスのこと。プロセスの中では、メジャーリーガーの大谷翔平選手が、高校1年生の時に「8球団からドラフト1位指名を得る」という夢を叶えるために書いていた「マンダラシート」を基に作られた「SELFingシート」も活用する。「人生目標」と「3年後の自分(キャリアプラン)」を書き出し、それをもとに半期に一度、上司と一対一でのセッションを行うのだそうだ。

世界中どこにいても「日本のマンガ」を学べる世界に

馬渡さんが今年2月に書いたSELFingシートには、フランスで過ごした6年間の経験が反映されているという。

「フランスでは有休消化や長期の休暇を取ることが欠かせず、スタッフに残業させずに業務を進めてもらう必要があるので、そのあたりのマネジメントにはかなり気を配っていました。そういう環境にいたからか、私も友だちと食事をしたり、旅行を楽しんだり、自分のために時間を使うことを自然と大切にできるようになった。自分自身のライフワークもすごく意識するようになりましたね」

6年間の赴任で最も嬉しかったのは、「フランスに学校を作ってくれてありがとう」と学生から言われたこと。一年目は人数が集まらず、カリキュラムへのクレームにも苦労したが、2期生の男子学生から感謝の言葉をもらえたのだ。

フランスでの経験を糧に馬渡さんが描く次の目標は、海外向けにオンラインのマンガスクールを作ること。世界中どこにいても、日本の漫画を愛する人たちが自由に、好きに漫画を学べる機会を広げたいと夢見ている。

ヒューマンアカデミー 海外事業戦略室 室長 馬渡幸恵さん
編集部撮影
歌代 幸子(うたしろ・ゆきこ)
ノンフィクションライター

1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。