いざというときに人がついてきてくれるかどうか

──当時の縁組みという一種のビジネスを、伊都子妃みずからが企画、調査して、上手に根回ししながら実現させていく。現在のビジネスウーマンにも通じるものがあります。

『李王家の縁談』
『李王家の縁談』文藝春秋/1760円

【林】その通りです。伊都子は、あの時代にありながら大変進取の気性に富む現代的な女性でしたが、政治力や人心掌握術にも大変けていました。やはりいざというときに人がついてきてくれるかどうかで人生は分かれるものだと思います。私自身も、最近、女性で初めて日本文藝家協会の理事長に就任し、年上の作家の方とお付き合いさせていただいていますが、人の心を読んでいかないと進まないことを実感しています。企業でリーダーの立場にいる女性であれば学ぶべき能力だと思いますね。

──ご自身は企業であれば社長や役員になられている年代だと思いますが、今後のお仕事へのスタンスに何か変化はありますか。

【林】作家の先輩方を見ていると90代でも現役で書いていらっしゃる方が何人かはいます。私はこれからも、読者の心を捉える作品を書き続けていきたい。ただ、今は日本の女性に起こっている変化がすごくて、若い読者にアプローチするとなると相当な努力が必要だと感じています。ひと昔前のように、「結婚は?」とか「子どもは?」とか気軽に聞くことができない時代になってしまいました。

ただし、やはり魅力的な女性というのはいつの時代も話題や知識が豊富です。私は、女性は絶対に仕事を続けていくべきだと思っているのですが、ぜひ働いて得たお金の一部を本に投資していただいて、教養ある女性でいてほしいですね。

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構成=小田慶子 撮影=干川 修

林 真理子(はやし・まりこ)
作家・エッセイスト

1986年に直木賞を受賞。現代小説、歴史小説、エッセイと幅広いジャンルで精力的に作品を発表している。2018年『西郷どん!』がNHK大河ドラマになり、紫綬褒章を受章。近著に『奇跡』がある。