3年前から書きたいと思っていたテーマ
──皇族の結婚が大きな話題になっている時期に、朝鮮王朝最後の王子に嫁ぐ皇女の物語を出されました。
【林真理子さん(以下、林)】3年前から書きたいと思っていたテーマで、狙ったわけではなかったのですが、タイムリーだったかもしれません。私は以前から皇室に大変興味を持っていて、1990年代に書いた『ミカドの淑女』など、過去にも皇族にまつわる小説を出していますが、そこからの流れで自然に今回の作品を書かせていただきました。
──朝鮮の王朝に嫁いだ本人である方子妃ではなく、あえてその母の梨本宮伊都子妃の目線で物語を進めていかれたのはなぜでしょう?
【林】彼女は、鍋島家の血が入っている皇族の女性ですが、新しいものをどんどん取り入れ、こっちがダメならすぐにあっちにいく。娘たちや親族を縁組みさせていくという自分の役割を大変よくわかっていて、そのうえで満州や朝鮮を訪れ、物事を判断する現場主義者でもあります。『梨本宮伊都子妃の日記』を読んで、この時代にこんなにも合理的で面白い女性がいたんだと感銘を受け、彼女の目線で描いてみたいと思いました。
いざというときに人がついてきてくれるかどうか
──当時の縁組みという一種のビジネスを、伊都子妃みずからが企画、調査して、上手に根回ししながら実現させていく。現在のビジネスウーマンにも通じるものがあります。
【林】その通りです。伊都子は、あの時代にありながら大変進取の気性に富む現代的な女性でしたが、政治力や人心掌握術にも大変長けていました。やはりいざというときに人がついてきてくれるかどうかで人生は分かれるものだと思います。私自身も、最近、女性で初めて日本文藝家協会の理事長に就任し、年上の作家の方とお付き合いさせていただいていますが、人の心を読んでいかないと進まないことを実感しています。企業でリーダーの立場にいる女性であれば学ぶべき能力だと思いますね。
──ご自身は企業であれば社長や役員になられている年代だと思いますが、今後のお仕事へのスタンスに何か変化はありますか。
【林】作家の先輩方を見ていると90代でも現役で書いていらっしゃる方が何人かはいます。私はこれからも、読者の心を捉える作品を書き続けていきたい。ただ、今は日本の女性に起こっている変化がすごくて、若い読者にアプローチするとなると相当な努力が必要だと感じています。ひと昔前のように、「結婚は?」とか「子どもは?」とか気軽に聞くことができない時代になってしまいました。
ただし、やはり魅力的な女性というのはいつの時代も話題や知識が豊富です。私は、女性は絶対に仕事を続けていくべきだと思っているのですが、ぜひ働いて得たお金の一部を本に投資していただいて、教養ある女性でいてほしいですね。