固定観念の上塗りにならないか

実際の授業では、例えば給与明細を教材にして、可処分所得や非消費支出など、家計の構造や収支のバランスについても扱った上で、高校卒業後の進路や職業も含めた生活設計に基づいて、具体的にシミュレーションすることも想定されているそうです。

ライフステージに応じた住居の計画を立てるための学習では、住宅ローンに関する費用と家計管理を関連付けるなど、多くの人がいずれ経験するライフイベントに備えた知識も学ぶようです。

給与明細書
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ただし金融教育の方法はまだ標準化されていないため、実際の教育現場では内容に差が生じてしまうという課題があります。このあたりは教員の慣れや授業の組み立て方の蓄積といった時間が解決してくれる可能性はあります。

とはいえ、ちょっと薄気味悪い感じがしないでしょうか。上記の設定はほぼ「サラリーマン家庭」を前提としていて、「貯蓄が大切だ」「資産形成は投資信託で」などという固定観念を助長しかねない印象です。

あるいはもし「借金は良くない」という考えを先生が言ったとしたら、奨学金や教育ローンを使った自分への投資や、不動産投資といった借金の活用方法があることを否定しかねないな、とも感じます。

また、教師は知識としては教えられても、その教師本人が起業の経験も投資の経験もなく、さらに家計の中から自己投資として自分の価値を高める支出を継続的にやっていなければ、既存の常識や固定観念の上塗りにすぎない教育になりそうな懸念があります。

踏み込んだ議論ができるなら意義がある

それで思い出したのが、私が高校の時に受けた保健体育での性教育の授業。高校生での性行為の是非をグループごとに議論し結論を発表するというもので、確か私たちの班は「しっかり避妊をしていれば問題ない」みたいな内容だったと記憶しています。

それですべてのグループの発表が終わった後、最後に先生がまとめたのは「責任が取れない高校生は性行為をしてはいけない」というものでした。

それで私はガックリきて、「何だよ、出来レースかよ! 最初から結論が決まってるなら、さっきの議論は意味ないじゃん! 時間の無駄じゃん!」とブーブー文句を言ったのを覚えています。

昨今の性教育はかつてとは違うと思いますが、妊娠のメカニズムや避妊方法を教えないで一律に「ダメ」というのは教師の逃げのように当時は感じました。

それに、仮に高校生で妊娠・出産したら具体的にどういう状況が想定できるのか? そして学業を諦めることなく育児と両立するには、両親の理解と配偶者の協力を前提として(10代の結婚では離婚率が高いですが)、こういう行政の支援があり、こういう制度を利用することで、ある程度は解決可能になる(想像できないほど大変なことだけれど)、という選択肢や可能性を議論することだって意味のあることでしょう。10代に限らずシングルになる可能性は誰にでもありますし。

でも現実の授業ではこういう考え方は否定されやすい。