誤配された現金を返送するか
ピフらがこのような数々の研究を発表して以来、多くの研究者がそのテーマについて研究を積み重ねてきました。その結果、真逆の結果を示している研究もあります。
例えば、オランダの研究チームは、中規模都市にある400軒以上の裕福な家庭と貧しい家庭にお金の入った透明の封筒を「誤配」するというフィールド実験をしました。この誤配に対して、封筒を返送するのは、誤配された人にとっては、面倒で負担となる行為です。ですが、本来受け取るべき人にとっては、とても利益になることなので、誤配されたものを、申告して元の人に届けるようにすることは、利他的な行動で、心理学の用語では「向社会的な」行動と言われます。
この実験では、このお金は、祖父から孫へのプレゼントであることが記載された手紙が同封されていて、すべての封筒に5ユーロか20ユーロが入っていました。送ったお金は、封筒を手にした人がすぐにお金(現金、あるいは、送金用紙)だとわかるようになっていました。その結果、裕福な人の約80パーセントが、封筒を返送した一方、裕福でない人は、約75パーセントの人が封筒を返送しなかったということが明らかになりました。
なぜ持っていても意味のない送金用紙を返却しないか
上述の実験で、ポイントとなるのは、誤送された封筒の中に入っていたものが、現金、あるいは、送金用紙であった、というところです。実は、富裕層では、どちらが入っていたにしても、約80%の人が封筒を返送しています(若干、現金のほうが返送率が低かった)。ところが、裕福でない人は、ある意味持っていてもそれだけでは全く価値がない送金用紙であっても約半数の人が返送しなかったのです。
封筒(祖父から孫宛ての現金か送金用用紙)を返送するか否かの選択をするとき、裕福な人と貧しい人が直面する明らかな違いは、後者のほうがお金を必要としていることです。貧しい人のほうが封筒を返送しない理由はここにあります。
ところが、持っていても何も得るものがない送金用紙であっても、貧しい人のほうが返送しなかったのはなぜでしょうか。