つらい2年間のはじまり
それでも決意は固く、2015年12月にコンサルティング会社へ転職。銀行や保険会社など金融機関向けのサービスを提供する会社で、役職はなく新卒社員と同じ立場からのスタートとなる。オファーを受けて入社したものの、大畑さんにとっては「つらい2年間」だったと苦笑する。
「自分ではまた階段を下りて、新入社員の気持ちでやり直すつもりでした。どうしても役職が上がると自分が偉くなった気分になりがちで、どんどん加速してしまうのが怖かった。もう一度初心に戻って自分を見つめ直し、新しいことを身に付けたいと思っていたのですが、それは甘かったというか……」
転職先では中途採用として即戦力となるプロ意識を求められる。だが、自分にはそこで闘える武器もないことを思い知らされた。コンサルティングは経験がなく、プレゼン資料なども作ったことがなかった。パワーポイント一枚書くのにも一苦労し、2週間ほど修正しつづけようやくOKが出ることも。何が相手にとっての価値になるかもわからず、ますます自信を失っていった。
「あの人はアベっている」
コンサル業界では「アベる」という言葉が使われ、英語の「available(アベイラブル)*在庫がある、利用できる」という意味から、コンサルタントがプロジェクトにアサインされていない状態を指すのだという。
「職場の雰囲気もシビアで、どれだけ自分に仕事が与えられているかが周りにもわかる環境でした。プロジェクトに配置されていないと、『あの人はアベっている』と見られるので、自分もそう言われているんじゃないかとすごく不安になったりするんですね」
一度管理職を離れたことで、あらためて気づくこともあった。最初の会社は年代や価値観も似たような人が集まり、仕事もしやすかったが、転職先は外資系でいろいろな考え方の人たちに出会う。自分自身の知識や経験、これまで常識と思っていたことが通用しない人もいた。あるとき、海外生活が長い年下の同僚に良かれと思い一言アドバイスをしたら「大畑さんのやり方が全部正しいわけじゃないよ」とばっさり切られ、ショックを受けたこともあったという。
「つらくても、前職に戻るわけにはいかない。ギリギリまでがんばろう」ともがき続けた2年間。自分を見つめ直した大畑さんはもう一度、事業会社で働きたいと考えるようになった。個人事業主のようにひとりで数値を達成していくよりも、同じ目標に向かい、仲間と進めていくような職場が自分には向いている、それが楽しく心地よいと気づいたのだ。ライフネット生命保険とは仕事で関わった経験があり、そこで出会った人たちと「一緒に働きたい」と思ったのだという。
ずっと自信が持てずにいた
2度目の転職を決意した大畑さんは、2018年1月に入社。お客さまサービス本部の事務企画部へ配属された。
「会社の理念にもすごく共感できました。いちばん好きなのは、『保険料を抑え、お客さまの人生の楽しみに使ってほしい』という考え方です。私も自分の生活を豊かにして幸せに暮らしたいと願っているので、たくさんの方に提供できる仕事ができればいいなと思ったのです」
翌年4月にはプライベートで大学院へ進学した。きっかけは社内で開催された勉強会に参加し、幸福学の研究で知られる前野隆司教授の講義に感銘を受けたことだった。慶應義塾大学の大学院にシステムデザイン・マネジメント研究科があり、前野教授の研究室へ。
システムズエンジニアリングというシステムをつくるときの考え方や、それを基に社会課題を解決していく手法などを学ぶことになる。
「実は勢い余って受けてしまったので、本当に通えるのかと不安もありました。それでも当時の上司に相談したら、『ぜひ行ってみたら』と後押ししてくださったのです。私の中にはまだまだ自信を持てない自分がいて、そこを埋めたいという気持ちもありました」と、大畑さんは漏らす。