趣旨は劣遇されている非正規の処遇を上げることにあるはず

ところで企業にとってやっかいなのは、一方的に正社員の処遇を切り下げると「不利益変更」となる恐れがあることだ。労働契約法9条は労使合意のない不利益変更を禁じている。合意なしで変更するには「労働者の受ける不利益の程度」「労働条件変更の必要性」「労働組合との交渉状況」「変更後の就業規則の周知」などの要件をクリアしないといけない。

そもそも正社員の処遇の切り下げは、正社員と非正社員の均等・均衡待遇を促すパート・有期雇用労働法の立法の趣旨に反する。労働法の専門家は「パート・有期雇用労働法の趣旨は劣遇されている非正規の処遇を上げることであり、正社員の処遇を下げることで非正社員の処遇と合わせたり、賃金原資を一定にして正規と非正規を合わせたりすることは許されない。仮に正社員の処遇を下げる形に就業規則を変更しても変更の合理性が問われ、裁判所はおそらく合理性を欠き、無効と判断する可能性がある」と指摘する。

正社員と非正社員の間に不合理な格差がある場合、企業は非正社員からだけではなく、処遇の切り下げを理由に正社員からも訴えられるリスクを抱えている。実際に2021年1月、済生会山口総合病院の労働組合に加入する正職員が「同意していない就業規則の改定で手当が削られる違法な不利益変更」だとして、削減分の支払いを求めて山口地方裁判所に提訴する事例も発生している。

歩道橋から景色を眺める女性
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諸手当の削減を後押しするジョブ型雇用

ではどうすれば正社員の納得を得ながら諸手当を削ることができるのか。実は諸手当の削減を後押ししているのが、現在導入が進みつつあるジョブ型雇用だ。

ジョブ型雇用は職務内容を明確に記したジョブディスクリプション(職務記述書)に基づいて仕事ができることに焦点が当てられがちであるが、その賃金は担当する職務レベルに応じて支払われる「職務給」と呼ばれるものだ。職務給は必要とする職務を担うことができるかどうかでポストに登用する“仕事基準”。人に仕事を当てはめる“人基準”の従来の日本型の人事制度とは異なる。

職務が担えない、必要とされる職務がなくなると降格や減給も発生する。そして仕事基準である以上、年齢や勤続年数などの属人的要素を徹底して排除するのがジョブ型=職務給の前提となる。