数年かけて「全廃止」する手法が一般的

ただし、人事制度をジョブ型に変えたからといって、諸手当を一気に廃止するのは「不利益変更」になる。そのため、従来の諸手当を「調整給」として基本給に組み入れ、その上で調整給を毎年少しずつ減らすという経過措置を設け、数年後に全部を廃止するという手法が一般的だ。

ジョブ型導入に関心を持つ企業が増えている。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「ジョブ型雇用の実態調査」(2021年8月4日~8月31日)によると、38.3%の企業が一部または全部にジョブ型人事制度を既に導入済と回答。ジョブ型人事制度導入に向けたプロジェクトが稼働中・発足予定の企業は13.3%、情報収集のみの企業が14.1%と関心が高い。一方、自社への導入を検討していない企業が29.7%と3割にすぎない。今後、諸手当削減の圧力はますます強まるだろう。

もともと家族手当や住宅手当などの諸手当は、少ない基本給を補う生活保障給でもあった。しかし今も日本は給与が上がらない状態が長く続き、実質賃金は1997年をピークに低落傾向にあり、97年を100とした2020年の個別賃金指数は95にとどまっている。OECD(経済協力開発機構)諸国の平均賃金調査でも日本は35カ国中22位にまで落ちている。

諸手当があることで高い家賃や子育てにお金がかかる時期の生活をやり繰りしている人は多い。それが剝奪されることで生活基盤が崩れる人は多いだろう。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。