体力が向上すれば学力も向上するという研究もある

また、小学校高学年よりも中学生において、学力の高低による体力差は拡大していました(特に学力低位の生徒の体力が低い)。このことから、学力の低い子どもは体力・運動能力も低い傾向があること、また、この傾向は学年が進むにつれて顕著になる傾向にあることが明らかとなりした。

先行研究では、学力と体力の因果関係(どちらが原因でどちらが結果か)についても検証が進んでいます。日本の子どもを対象にした縦断的研究では、運動部に所属して体力が高まると学業成績が向上し、運動部を途中退部すると学業成績が下がったことから、運動することが体力を高めるだけでなく、体力の変化が学力の変化を引き起こす要因であると考えられています(石原、2020)。

今回の分析結果と先行研究の成果を踏まえると、教育関係者が関心を寄せる学力問題(学力低下や学力格差)の改善に向けた一方策として、体力低下傾向に歯止めをかけ、体力・運動能力の二極化傾向を改善することが有効だといえるのではないかと考えます。

つまり、体力問題への対応が、同時に学力問題の解決につながっていくということです。

子どもにとってスポーツはどれほど重要なのか

本稿では、スポーツ格差すなわち家庭の社会経済的条件(所得・学歴・職業)による運動・スポーツ機会への参加及び体力・運動能力等の不平等な差異に焦点を当て、これを問題視するスタンスをとっています。

しかしながら、現代の子どもたちにとって「スポーツをすること」や、「スポーツができること」が、彼・彼女らの日々の生活の中でとるに足らない些細なことなのであれば、いかに格差が明らかになったとしてもさほど大きな社会問題とはなり得ないでしょう。そこでここでは、親と子どもの双方の立場から調査した結果をもとに、現代の子どもにとってスポーツがどれほど重要なのか、について検討してみましょう。

まず、親に対しては、次のような調査を行いました(*1)。子どもたちが生活の中でよく利用・使用する26項目の「モノ」や「コトガラ」を挙げ、これら各々について、「小学6年生の子どもが普通に生活するために次のことがらはどのくらい必要だと思いますか」と質問し、「絶対に必要」から「全く必要でない」までの5件法で回答を得ました。

全データ(幼児の保護者から中学生の保護者まで)を用いた集計の結果は図表3に示す通りです(ちなみに親の生活必需品意識について、子どもの学年による差はほとんど見られませんでした)。

全26項目の中で、最も必需品意識が高かったのは、「1.毎日の朝ご飯を食べること(5点満点中4.88)」であり、最も低かったのは、「スマートフォンやタブレット(2.08)」でした。

(*1)調査の企画にあたっては、阿部(2008)による「子どもの生活必需品に関する合意基準アプローチ」を参考にした。