“漁師たちと血の通った関係を構築してこそ安心して食べられる「本物」を届けられる”

事業は坪内さんを代表として進み法人化。今では地方創生に興味がある大学生が志望する人気企業になった。また女性が働きやすい体制づくりにも積極的で、子連れ出勤も歓迎だ。自身も母親であるために採用した就労スタイルだったが、やってみると昭和初期の会社のように大家族的で居心地がいい。

漁船前で。船団丸最初のモデル「萩大島船団丸」。北海道や千葉、鹿児島などで水平展開する船団丸のノウハウは萩大島の漁師たちがコンサルタントとなり全国に広める。
漁船前で。船団丸最初のモデル「萩大島船団丸」。北海道や千葉、鹿児島などで水平展開する船団丸のノウハウは萩大島の漁師たちがコンサルタントとなり全国に広める。

「伝票を書く人が子どもをおんぶしていてもいいと思う。地方の中小企業は東京の大企業とは違う。萩大島モデルでは私生活も仕事も両方とればいいんです」

実際、血の通った関係づくりが、フレキシブルで温もりのある顧客サービスにもつながる。マネーフローよりも大事なことは、働き生きる場所をつくり、多くの人と関わって人間力を磨くことだと、坪内さん。

「恩送りって大事です。2021年の2月に福島で震度6の地震があったとき、義援金ではなくおいしい鮮魚を1トン送りました。食べても売ってもいい。大好評でした。目先の利益じゃない、こういうご縁が新しい仕事につながるのです」

儲け主義は駆逐される。嵐もなぎも味わった起業家の力強い実感だ。

リーダーとしての3カ条
坪内知佳(つぼうち・ちか)
萩大島船団丸  代表
1986年、福井県出身。大学中退後、結婚を機に山口県萩市へ移住。2010年、萩市内に翻訳とコンサルティングの事務所を設立。同年まったく知見のなかった漁業の世界に。11年、約60人の漁師をまとめ任意会社「萩大島船団丸」を設立し代表に就任。農林水産省より6次産業化認定。市場を通さず、全国の消費者や店舗に直送する自家出荷をスタートさせる。14年に法人化し、株式会社GHIBLI代表取締役に就任。15年から福島県いわき市の漁港復興にも携わる。

撮影=畑谷友幸

モトカワ マリコ(もとかわ・まりこ)