幸運か不運かはそのときにはわからない

私の好きな言葉に「人間万事塞翁が馬」というものがあります。これは中国が由来の話で、ある村の翁が飼っていた馬が逃げてしまうけれど、立派な馬を連れて帰ってくる。しばらくすると息子が馬から落ちて骨折したけれど、そのおかげで息子は戦争にいかずにすんだ、というもの。つまり一見、不運に思えることも幸運につながるし、その反対もある。人生においても、何がいいか悪いかはそのときにはわからないということです。

撮影=Hiroshi Homma

人生というのは、どんなできごとで、どう転ぶかというのは、本当に予想がつかないものなのに、こうなったから昇進する、昇進できなかったからこの先悪いことが起こる、と私たちはついつい人生を直線的に考えてしまいます。

でもどんな人の人生も長い目で見ると、山あり谷ありで、決して直線ではない。あんなことがこんなことにつながったのか、と思うことも多いものです。

馬から落ちても、いい方向に転じることがあるように、今がよくないと思ってもよい方向に転ぶことが大いにあるわけです。

嫉妬や焦りにかられたら、ぜひこの言葉を思い出してください。

構成=池田純子

伊藤 東凌(いとう・とうりょう)
両足院 副住職

京都「両足院」副住職。両足院で生まれ育ち、3年間の修行を経て僧侶に。アメリカFacebook本社での禅セミナーの開催やフランス、ドイツ、デンマークでの禅指導など、インターナショナルな活動も。7月には禅を暮らしに取り入れるアプリ「InTrip」をリリース。著書に『月曜瞑想』(アスコム)がある。