不妊治療として申請したくない人も多い

不妊治療休暇を設けることはよいとしても、実際に不妊治療を行う人にとってはさまざまな悩みがある。公益財団法人1more Baby応援団の「夫婦の出産意識調査2021」(2021年5月31日)によると、最も多いのは「勤務先での不妊治療に対する上司、同僚などの理解(風土)」(58.0%)、次いで「不妊治療として申請せずとも有給休暇をいつでも誰でも取得できる風土」(52.9%)となっている。

子どもを欲しいと思う当事者にとっては、不妊治療は切実な問題であるが、職場には不妊治療に関する知識がない人も多いだろうし、先入観や偏見を持っている人もいるかもしれない。休暇制度があっても、知識不足や偏見に満ちた職場の雰囲気が改善されなければ申請する人はいないだろう。当事者の中には、不妊治療をすることを第三者に知られることを嫌がる人もいる。それは「不妊治療として申請せずとも有給休暇をいつでも誰でも取得できる風土」という回答に現れている。

導入には、細心の対応が必要になる

制度を設けても結局、従来の有給休暇を使う人が出てくるかもしれない。前出の人事院の調査では、不妊治療をしていることを伝えることについても聞いている。不妊治療の経験がある人・不妊治療を検討している人のうち「積極的に伝えたい/知ってほしい」人はさすがに5.2%と少ないが、「誰にも伝えたくない」人が31.4%もいる。一方「仕事上、必要最小限の関係者に伝えることは構わない」人が54.1%となっている。

実は今回の公務員の不妊治療休暇を新設したのは「仕事との両立が難しい原因として通院回数が多いこともあり、何らかの休暇的措置が必要になる。休暇を申請すると、上司や周りの職員に伝えざるを得ないが、必要最小限の関係者に伝えることは構わないとの回答が多かった」(人事院の担当者)ことも理由の1つになっている。

必要最小限の関係者とは、申請する担当者である管理職または人事部ということになるだろう。管理職であれば当然、不妊治療に関する知識や当事者に対する理解と共感を持っている人でなければならない。そうでなければ本人の気持ちを察して情報を秘匿することはしないだろう。

制度を導入する以上、細心の対応が必要になる。「不妊治療休暇」というネーミングも工夫する余地がある。また、組織として管理者に対する研修など啓発活動も重要になる。休暇制度は来年1月1日から公務員を対象に実施されるが、いずれ民間企業でも制度が法律化される公算が高い。制度があっても男性育休のように取得率が低いのでは困る。不妊治療のための休暇を誰もが取得しやすい職場風土に変えていくことが企業にも求められている。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。