チームの体制強化をミッションに課長に抜てき

そんな御厨さんに臨床開発グループの課長の辞令が下る。2020年1月のことだ。前回のことをふまえ、社内トップから、治験の実施体制を強化するというミッションも課され、メンバーも11名に増えた。しかし、当初の治験経験者が2人抜けてしまい、若手と専任職社員、急きょ採用された中途社員というチーム構成に。誰もが新たな環境で自信をもてず、業務も受け身になりがちだったという。

「私に課長の役割が務まるのだろうかと不安で押し潰されそうになり、皆も弱気だったと思います。そんな中で人事部長に『課長の役割は、グループの成果を上げることと部下のモチベーションを上げること』と言われ、道が開けました。まずは部下のモチベーションを上げて、個々の力を活かすことを意識しようと思ったのです」

「交換日記」と「ガントチャート」

子育てにも通じるものがあると、御厨さんは考えた。そこで始めたのが、部下との「交換日記」だ。ウェブ上の交流ツールを使い、両者で書き込んでいく。御厨さんは、そこで日々気づいた良い点や成果を褒めて、期末には他のグループ員からのコメントも添えたサイン帳を作って渡すようになった。会議の中で良い発言をしたなどのささいな気づきでも、小さなところから褒めることを心がけることで、「今日も良いところを見つけよう」と部下の様子を細やかに観察する習慣がついた。

一方、業務についても、子育てのなかで始めたスケジュール管理を活かした。具体的なゴールに向けた実行項目を日付と進捗率で記録する「ガントチャート」を各自に作ってもらい、日々確認していくことに。それによって達成感を感じてもらい、部下の目先の不安を解消することを目指した。

「賢くなろうとするな」

こうした取り組みを通して、部下のモチベーションを上げることが、各自の成長支援にもつながっているという考えから、小林製薬では、社内でも上司と部下が話し合う「成長対話」という場を定期的に設けているという。「成長対話シート」というツールを用いて、部下が思い描いている「ありたい姿」について一対一で話し、そこへ向かうためのアイデアを一緒に出し合うという取り組みだ。御厨さん自身も、ゆっくり成長を見守ってくれる上司の言葉に支えられてきたという。

「もともと仕事も母親業もこうあるべきと、完璧を目指そうとする気持ちが強かったと思います。うまく両立できないと自分を責めたり、何とか成果を出そうと焦ってしまったり……。でも、そんな私を見ていた研究所の所長に言われたのです。『しょせん、御厨は御厨でしかないから、あんまり気負うな』と。そして『自分が賢くなろうとするな。人を巻き込み、賢い人に助けてもらえばいい。賢くなり過ぎず、助けてもらえる人間になれ』と言われて、すごく安心しました。所長はたぶん身の丈に合った闘い方を見つけなさいと教えてくださったんですね。『おまえさんがそんなに成長するまで、待ってられへんわ』とも(笑)。きついようでも愛のある言葉をかけてくださいました」

そして課長となり1年半経った今、新体制にて実施した治験が無事審査を通過。ついに治験の「GCP適合」を受けた。これは2009年から取り組んできた、御厨さんが担当する全ての治験が終わりを迎えたことを意味する。

「無事に審査を通過したことがうれしいのはもちろん、今のメンバーで治験を乗り切れたこと、何よりグループ員一人ひとりが自分に自信を持ち、自らの意見を私と戦わせてくれている今が、私の大きな財産になっています」。