初めての訪問先は90代の夫婦の家

新年早々に連絡があり、介護タクシーに利用者を送迎する仕事が始まる。病院へ透析治療に通う車椅子の人の付き添いだ。さらにプラスワンケアサポートからも訪問介護の仕事が入った。

初めての訪問先は、90代の夫婦の家だった。千福さんの場合は73歳という年齢なので、最初にまず相手の人と面接をする。同行したスタッフが紹介したうえで、先方から「来てください」と言われたら、一人で訪問することになる。最初は掃除や炊事など家事支援が中心だった。

「家でやってきたことなので大変なことはありません。『ちょっと素麺炊いてください』とか。お年寄りが好む味は自分と同じようなものです(笑)。皆さん、昔話が好きなので、いろんな話をされますね。掃除機をかけているとなかなか聞き取れないけれど、手を止める暇もないから、声を張りあげて返事をします。『昔は良かったですねぇ』と相槌を打ちながら。まあ楽しいもんですよ」

人生、何が役に立つかわからない

訪問するのは50分から1時間ほど。その間に体調や服薬の確認、食事の希望を聞いて近所のスーパーへ買い物に行ったり、家事をしたり、と、フル回転で動かなければならない。一日に数軒の家をまわれば、体力もきついと思うが、千福さんは「ずっと身体を動かしていましたから」と頼もしい。

職場で開かれた誕生日パーティー
職場で開かれた誕生日パーティー(写真提供=プラスワンケアサポート)

さらにおむつを替える排泄介助、身体に麻痺のある人をベッドやトイレに移動させる移乗介助など、技術をともなう支援も増えていく。

「それも介護タクシーで車椅子の人に付き添っていたでしょう。3年間やっていたから、あの経験が活かされました。だから、何が役に立つかわかりませんよ」

ホームヘルパーとしての経験を着々と重ねていった千福さん。その先にはまた次なるチャレンジが待ち受けていた(後編に続く)。

歌代 幸子(うたしろ・ゆきこ)
ノンフィクションライター

1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。