イライラしたらトイレにゴー

とはいえ、目の前の子どもが明らかにサボっている、やらなければいけないことを全然やっていない場面に遭遇すると、ついイライラしてしますよね。

「そういえば前もやっていなかった」と関係ないことまで思い出して怒ってしまう。ネガティブな記憶をとどめておくことは、人間の生存本能なので、仕方がないこととはいえ、子どもからすると前のことまで引っ張り出されてしかられるのでは、たまったものではありません。

そんなときは、とにかくその場から離れるのがベストです。小児科の先生も親御さんには「イラっとしたらトイレにかけこんでください」とよく言っています。

その場を離れて、クールダウンしてから「さっきの話だけど……」と話せば、多少とげのある言い方になったとしても、感情に任せてイライラや怒りをぶつけることは少なくなります。それだけで十分です。

親であっても、24時間365日子どもをずっと好きでいるのは難しいです。ただ、やはり人間の感情は、沸点に到達した瞬間のエネルギーが一番強いので、そこで感情をむき出しにして暴言を吐いたりすると、子どもに恐怖を与えたり、子どもの人権を傷つける恐れがあります。それは絶対に避けたいところです。

ですからイライラしたら、トイレにかけこんで「あの子はあの子で頑張っているな」と子どものポジティブなことを思い出して、ネガティブな気持ちを自分の中におさめていく。トイレに、以前子どもからもらった手紙など、見ると心がなごむアイテムを用意しておくのもよいでしょう。そうしてかっとなったネガティブな気持ちを静め、バランスをとってほしいですね。

親の幸せと子どもの幸せは別モノ

子どもをコントロールしたい、自分の言う通りにさせたいという気持ちがわいてきたら、人生の幸せとはどういうことかということを考えてみましょう。

子どもに幸せに生きてほしいと思うのは親共通の願いですが、幸せになる手段は、勉強だけではありません。ほかに選択肢はたくさんあります。勉強ができれば幸せになれると考える人が多いですが、勉強ができても幸せでない人はたくさんいます。その事実をしっかりと見つめてほしいですね。

そもそも親の考える幸せと子どもの考える幸せは全く違います。子どものためを思ってやっていることが、子どもにとっては幸せなことじゃないかもしれない。そこはいつも疑ってほしいですね。

結局、子育てでいちばん大切なことは、子どもが周りの判断にふりまわされず、自分のものさしで自分の幸せをはかれるようになることです。その第一歩は、親が自分自身の価値観を見直すこと。何よりも、子どもはいてくれるだけでいい存在のはずですから。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。