留学後、大手商社の受付に
帰国した田澤さんは、百貨店時代の元上司のもとに「これから就職先を探します」とあいさつに訪れた。そこで、「お前の学歴でどこに行くんだ。これ以上、大きな会社に勤められるわけがない」と言われ、小中高と体育会系だった負けず嫌いの血が騒いだ。そして、「とにかく大きな会社を目指してみよう」と、門をたたいたのは、総合受付の担当者を募集していた大手総合商社だ。
「書類選考が通ったのでいざ面接に行くと、周りは『スタンフォード大学を出た○○です』『MBAを持っている○○です』みたいな人ばかり。こうなったら取り繕わず思うままに答えようと思ったんです」
面接での最後の質問は、「商社の受付にはいろいろな人間が来ます。もし、ちょっと危なそうな人が来たら、あなたはどのように対応しますか?」というものだった。
「ほかの皆さんが『上司に相談します』など立派な回答をするなか、私は『私には怖いものはありません。“怖い”とか“私には無理だ”といった自分の限界は、自分の意識が決めているもの。もし無理難題をおっしゃる方が来たら、その時点で持っている知識を総動員してどうするか考えます』と答えたんです」
「採用はないだろう」と帰路につきかけたが、廊下を追いかけてきた人事担当者から「君、採用だから。明日から来られる?」と声をかけられる。柔軟に、ラフに、プラス思考で物事を考えられる点が、商社の受付にうってつけだと期待されたのだ。
もともと百貨店時代の経験もある。田澤さんは、どんな人が来ても変わらず丁寧に対応を続けた。そのうち、「あの受付の担当者は、対応が気持ちいい」との評判が人事の耳に入り、わずか2週間余りで役員室の受付に異動になった。
社長が驚愕「いい度胸だ」と秘書室に異動
ただ、来客の多い総合受付と違い、役員室の受付はそれほど忙しくない。
「本当はやっちゃいけないことなんですけど……。机の下にもぐってちょっと仮眠を取っていたんです。空っぽの受付を見て当時の社長が『受付がいない!』と。机の下から私が出てきたので驚かれたんですが、叱られるどころか『いい度胸をしているな』と面白がられて……」
それがきっかけで、秘書室に異動になった。しかし、そんな型破りのいきさつで受付から秘書室に来た田澤さんへの風当たりは強かった。
「まあ、いじめられるワケです。『お弁当を買ってきて』と言われて、全員の分のお弁当を買って帰ってきたら誰もいなくて『帰ってくるのが遅いから外に食べに行ってきた』とか。私も相当な天然ボケで『じゃあ、これ全部食べちゃってもいいんですよね!』と喜んで返したりしていたら、徐々に『この子は叩いても響かないんだな』と思われるようになったみたいです」