賃金格差が是正すれば女性活躍推進の本気度はさらに上がる

【白河】賃金の面ではどうでしょうか。今、ヨーロッパではジェンダーに関連した賃金ギャップが問題視されていて、どこの企業でも数値を測定すると男女差が表れてくると。そこを開示しなさいという動きも出ているようです。

【江川】当社でも賃金ギャップに関しては毎年調査を入れていて、同じ仕事なのに特段の理由もなく女性のほうが低い場合は修正をしています。こうした取り組みは、世界中のアクセンチュアでもう5年ほど続けています。私としては、賃金水準が限りなく男女平等に近づけば、女性を主要ポジションにつけようという意識も高まると考えています。経営者なら「せっかく高い給料を払っているのだから、それに応じたポジションに引き上げよう」と思うはずですから。

ただ賃金平等の話は、第一段階としてまず人数の男女比を半々にし、第二段階として上のポジションでも女性を増やし、その後の第三段階で初めて出てくるものだと思います。当社は海外のアクセンチュアも含めて第二段階まで進んでいますが、日本ではまだ第一段階にある企業が多いのではないでしょうか。男女の数合わせだけに終始しているようでは、女性はいつまでたっても主要なポジションにつけませんし、当然の帰結として賃金格差も縮まりません。まずは数合わせでなく、自然に女性が増える仕組みづくりが先決だと思います。

働き方が変わったことを知った元社員が続々出戻り

【白河】御社ではそうした仕組みづくりから始めて、昇進や賃金の部分でも女性への支援策を打たれていると。それに関して、男性社員から「女性のほうが昇進しやすい」「大切にされている」といった不満は出ていませんか?

【江川】出ていますよ。当社の女性比率は全体では36%を超えていますが、管理職だけ見ればまだ20%に満たない。この階層ではまだマイノリティーの状態ですから、支援するのは当然のことです。不満に対しては、女性管理職の増加は会社の成長にとって必要不可欠であり、そのための女性支援はやって当然だと説明しています。

【白河】そうした説明が男性の意識変革にもつながっているのですね。さまざまな改革を経て、今、御社ではいったん退職したOBやOGが大勢戻ってきていると聞きます。これは人材戦略の一環ですか?

【江川】特に戦略を立てたわけではないのですが、自然と戻ってきてくれていますね。そもそも、以前退職した人たちの中には、当時の男性中心の体育会系の働き方が合わずに辞めた人もいる。そこが明らかに変わったと知って、だったら戻りたいと言ってくれているようです。うれしいことですね。ただし、一定の成果は出てきていますが、改善しなければならない点はまだまだたくさんあります。手綱を緩めた瞬間に、改革は止まってしまいます。これからも、会社の実態をつぶさに把握し、社員の声を聞きながら、解決に向けたアクションを着実に積み重ねていきます。

【白河】江川社長が実行された改革は、女性活躍はもちろん人材獲得の面でも大きな効果を発揮していると感じました。そして改革の手を止めてはいけないことも、今回はとても勉強になりました。どうもありがとうございました。

構成=辻村洋子

江川 昌史(えがわ・あつし)
アクセンチュア 代表取締役社長

1989年、慶応義塾大学商学部卒業、同年アクセンチュアに入社。消費財業界向け事業の日本統括を歴任し、2008年に執行役員就任。 14年取締役副社長就任、15年より現職。20年3月グローバル経営委員会メンバーに就任。社長就任以降、日本におけるアクセンチュアのビジネスを3倍の規模に導くと同時に、全社横断の社員意識・働き方改革プロジェクトも主導。

白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学大学院特任教授、女性活躍ジャーナリスト

1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。