妻の所得が60%以上になると、夫の家事分担が低下する理由

さて最後に、世帯所得に占める妻の所得割合が60%以上になると、夫の家事・育児分担割合が逆に低下する原因について考えてみたいと思います。

これには2つ原因が考えられます。

1つは、夫が失業中や病気療養中であり、所得が少ない割に家事・育児に参加できないという状況にある可能性です。

もう1つは、「妻が大黒柱」という性別役割分業と乖離した状況になると、その乖離を修正するために、むしろ妻が家事・育児をやるようになるというものです。社会で一般的とされる状況と違う場合、揺り戻しが起こるというわけです。

これは社会学で「ジェンダーディスプレイ仮説」と言われています(※3)

この仮説の背景にも、「夫=仕事、妻=家事・育児」という性別役割分業意識が存在しており、その影響の根深さを物語っています。やはり、この点の意識改革は、避けて通れない道でしょう。

※3 ジェンダーディスプレイ仮説については、安藤潤(2017)『アイデンティティ経済学と共稼ぎ夫婦の家事労働行動』(文眞堂)をご参照ください。

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。