夫の家事・育児参加は妻の稼ぎに影響されない
図表1は、世帯所得に占める妻の所得割合と夫の家事・育児分担割合の関係を見ています(※1)。
これを見ると、妻の所得割合が増えるにつれて、夫の家事・育児分担割合も増える傾向にあります。
しかし、その上昇は妻の所得割合が50~60%のところで一度頭打ちになり、その後緩やかに低下していきます。また、夫の家事・育児分担割合は一番高いところでも30%に届かない状況です。
この図が意味するところは、「妻がいくら稼ぐのかという点は、夫の家事・育児参加にあまり影響していない」ということです。
妻と夫の所得が同じ程度であったとしても、依然として女性に家事・育児の負担が偏っているという結果は、ショッキングです。
※1 世帯所得に占める妻の所得割合は、夫婦の1年間の勤労所得の合計に占める妻の所得の割合を示しています。また、夫の家事・育児分担割合は、1週間の夫婦の合計の家事・育児時間に占める夫の家事・育児時間の割合を示しています。
理論と実態に乖離がある
また、この結果は、経済力が重要であると想定する分業や交渉の理論の予想と実態に乖離があることを示しています。
分業や交渉の理論以外の、「別な要因」が影響を及ぼしていると考えるのが妥当でしょう。
おそらく、その別な要因とは、日本で色濃く残っている「性別役割分業意識」ではないでしょうか(※2)。
「夫=仕事、妻=家事・育児」という考えが依然として残っており、それが男性の家事・育児参加を阻む「見えない壁」として存在するわけです。
女性の昇進を阻む見えない障害を「ガラスの天井」と例えることがありますが、男性の家事・育児参加割合にも似たような「天井」が存在しているのかもしれません。
このような見えない天井を壊し、価値観をアップデートすることが男性の家事・育児参加の促進につながっていくでしょう。
※2 性別役割分業意識といった社会規範が個人の行動に及ぼす影響に関しては、アイデンティティ経済学で分析されています。詳細は、ジョージ・A・アカロフ、レイチェル・E・クラントン(2011)『アイデンティティ経済学』(東洋経済新報社)をご参照ください。