贈り物では労力で恩返しをするほどの感謝は生じない

相手を喜ばせようと思って贈り物をすることがあります。確かに、相手はその贈り物が望ましいものであれば、happyになってくれ、感謝の言葉を言ってくれます。しかし、それが将来のコストを支払うだけの感謝の念につながっているか? というと残念ながらそんなことはありません。

恩返しをしようというほどの感謝の念が生じるのは、苦境に立たされた際に助けてもらうなど、直面する問題を解決する手段につながるようなシチュエーションであることが示されています。事実、そのような感謝の念が高ければ高いほど、恩返しとして他人に何か与えている時に、脳の中では報酬系の活動が高まっていることが示されています。

攻撃は成功を制限する

与える、と一言に言ってもその中には、罰や攻撃などネガティブな要素が含まれることがあります。しかし、攻撃性が強く人を非難しがちな性格は、同じように長い目で見ると、本人の成功を制限するだけでなく、所属する集団にまで悪い影響を及ぼすことが研究から示されています。

実験では、参加者がランダムに他の人とペア組み、ゲームをします。ゲームでは、「協力する」「騙す」「罰する」という3択があり、「協力をする」を選ぶ場合、最初に投資をしますが、相手も「協力する」を選んでいると、それぞれ1ドルずつ手に入れられます。一方、「騙す」を選ぶと、自分は全く投資をせずに相手から1ドルを奪うことができますが、この場合、お互いが騙すを選んでいると、双方1ドルも手に入りません。「罰する」を選ぶと、1ドルを払って相手が自分を騙しているかを知り、騙していた場合には、4ドル相手から奪うことができる、というルールになっていました。

このゲームを数百回実施した結果、短期的に見た場合、罰を下すことは、強制的な協力の回数を増やすことにはつながるのですが、最終的には、成功を妨げる行為が増え、全員の獲得金額が多くなることはありませんでした。一方、罰行動や攻撃行動を自制していた人たちは、最終的には勝者となったのです。

具体的には、平均的に常にある一定の罰行動を行っていた人より、罰行動などを全く行っていなかった人は、2倍多く稼ぐことができました。つまり、他人に罰を与えるような行為で短期的に、行動を正そうとすることよりも、常に自分を自制し、自分が正しい振る舞いを続けることが、長期的にみて最大の利益を生むのです。

ちょっとした成功が続いていると、人は、その成功にたどり着くまでにあった要因に気がつかなくなりがちです。成功が、自分ひとりの行動や意思決定の積み重ねの上に成り立っているように錯覚しがちになります。自分の努力以外にどんな要素があり、今の自分がいるのか、それを改めて振り返ってみることと、近視眼的にならないように気をつけることで、次の自分の行動が見えてくるでしょう。

参考文献
・Adam Grant, Give and Take: Why Helping Others Drives Our Success (New York: Viking, 2013)
・Bartlett MY, DeSteno D. Gratitude and prosocial behavior: helping when it costs you. Psychological Science. 2006 Apr;17(4):319-325. DOI: 10.1111/j.1467-9280.2006.01705.x.
・Bartlett MY, Condon P, Cruz J, Baumann J, Desteno D. Gratitude: prompting behaviours that build relationships. Cognition & Emotion. 2012 ;26(1):2-13. DOI: 10.1080/02699931.2011.561297.
・Kini P, Wong J, McInnis S, Gabana N, Brown JW. The effects of gratitude expression on neural activity. Neuroimage. 2016 Mar;128:1-10. doi: 10.1016/j.neuroimage.2015.12.040. Epub 2015 Dec 30. PMID: 26746580.

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。