管理職としての交渉力が必要

管理職になると、社内の他部署との調整や交渉が重要な仕事の1つになります。このときに、冒頭で触れたような基本の3点ができていないと聞く耳を持ってもらえません。常日頃から「最低限の仕事をこなす」「自己主張をする」「規律を守る」をクリアしておくこと。そして交渉の中では、いかにwin-winにするか、つまり相手にどんなメリットを与えることができるかを示すことが重要な落としどころになります。このとき、相手がどんな価値観を持っているか、何を大切にしているかを知っておくことは、非常に意義があります。交渉相手の価値観を知っておくことは、win-winにつなげる武器になるのです。

たとえば交渉相手が上昇意欲の強い人であれば、「プロジェクトの成功の先にあなたの昇進がありますよ」と示していくということですね。

これに加えて、管理職として誰かと交渉する際には「個人のため」ではなく「会社のため」という、プレーヤーとはまた違う考え方が必要になります。個人の思惑ではなく、それが会社の理念やビジョンにどれだけ合っているかということを説明材料に入れなくてはならない。さらに会社を飛び越えて、社会に対してどれぐらいインパクトのある仕事をするかといった目線の高さと気持ちの強さが大切になってきます。

自分の意見を通す根回しのコツ

日本の組織では「会議の前にすべてが決まっていた」ということも少なくありません。煙草部屋や飲み会で根回しが行われていたということです。こういった男性社会の見えない力学に疲弊している女性も多いことでしょう。

管理職になると、こうした社内政治を避けることはできません。まずそういった力学はあるものとして、そこにどのように入り込んでいくか作戦を練りましょう。

ステップ1としては「社内の勢力図を把握すること」です。誰が人事権を持っているか、予算はどれぐらいあるのか、社内の勢力図を調べると、影響力のある人がわかってきます。

そのうえで「自分の味方をつくること」。これがステップ2です。そういう存在は、いつ生きてくるかわかりません。たとえば先輩の管理職女性がいたら積極的に慕って、女性のキャリアプランなどのアドバイスをもらいながら親密度を高めておく。

自分を上にあげてくれた男性社員の存在も貴重です。自分の今の姿が期待に応えられているかどうか、フィードバックをもらいつつ、仲間として大切にしていく。相談されるほうも承認欲求が満たされるので、双方にメリットがありますよ。

味方をつくったうえで、勢力図のうち、最初は誰にアプローチすればいいかわかるようにしておくといいでしょうね。

女性の中には根回しを嫌う人も多いですが、社内で意見を通すには、やはり必須です。実は、こうした根回しは、コロナ禍でオンラインが増えて、しやすくなりました。たとえば、会議本番前に、力のある上司に自分の方向性を伝えてフィードバックをもらっておく。煙草部屋や飲み会でなくても根回しができるのは女性にとっては、かなり有利な状況。オンラインを活用して、どんどんやっていくことをおすすめします。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。