広報は営業の仕事に近い

私は、広報は営業に近い仕事だと思っています。営業担当者が自社の商品やサービスを取引先に売り込むのと同様に、広報はマスコミに対して、自社の商品やサービス、そして会社そのものをネタとした「ニュース」を売り込んでいくのです。ですから広報担当者は、報道関係者の心理を考え、「そのニュース、うちで取り上げたい」という気持ちになるような売り込み方をしなければなりません。

報道関係者の心理を読んだ売り込み方を実践するには、一般的な広報の基本を説いた指南書を頼りにしていてもうまくいかないでしょう。リリースや記者会見のフォーマットなど、ニュースを売り込むための形式は説明してあっても、より現場に即した重要なノウハウが足りていないものが多いのです。

ノートパソコンに表示したリポートについて話し合う同僚
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それは、相手の心理を見抜き、心を動かすための方法論です。私も、最初から相手の心理を見抜けたわけではありませんし、心理学を専門に習った経験もありません。日々の報道関係者とのやりとりや駆け引きの中で、自分なりに考え、身につけてきました。そのノウハウを営業担当者に話すと、「あ、それ営業がよく使う手法だよ」と言われることがしばしばあります。私のように、営業のノウハウを広報という立場で活用することは、ほとんど考えられていないようです。

それでは、ここでそのいくつかをご紹介しましょう。

売り込むときは、“資料を渡さない”

これはテレビ局のディレクターや記者に売り込むときに、私がよく使う手法です。普通はまずリリースなどの資料を渡し、それを見てもらいながら説明しているでしょう。しかし、私の場合は資料を用意していても、話の前に相手に渡しません。渡すとしても、話がすべて終わってから、念押しと確認の意味で渡します。

それはなぜか。

相手にこちらを向かせて、映像をイメージさせるためです。手元に資料がなければ、ディレクターや記者は私の目を見て話を聞いてくれ、時折、上のほうに視線をやって考えるようなしぐさをします。これは、自分の担当する番組やコーナーで、今こちらが売り込んでいる情報を取り上げたら、どのような映像になるのかを具体的にイメージしているのです。そういう映像が思い浮かばないと取材しようという気持ちにはなってくれません。したがって、映像をイメージさせるように話さなければならないのです。

資料を読みながら話を聞くのは難しいでしょう。資料に目を落として話を聞いていると、その内容は把握してくれますが、そこから先に思考が進まなくなってしまいます。人間は下を向いた姿勢でいると、想像力が乏しくなる傾向があるようです。

だから相手がテレビ関係の人であれば資料を渡さずに、互いに目を見ながら話し合うようにしています。

広報の仕事は、リリースなどを通じて、正確な情報を発信しさえすればいいというものではありません。発信した情報がメディアで取り上げられ、それが自社の活動に貢献して、初めて結果を出したと言えるのだと私は考えています。

そのためには、どうやったらニュースとして取り上げてくれるのか、相手の心を動かせるような的確なアプローチが重要になります。広報は、常に心理戦なのです。