売り込み相手と“対等”になるには

この売り込み方には、いくつものポイントがあります。

「▲▲さん(記者)が、○月○日の記事の中で外食産業に関する大変興味深い記事を書かれていたので、ぜひこのお話は▲▲さんにお伝えしたいと思いました」

まず、ここで「この記事を書かれたあなただから、私は電話したんです」という意図を伝えます。私はあなたの書いた記事をちゃんと読んでいますよ。あなたの読者ですよ、ということを冒頭でしっかりアピールするのです。記者にとって読者はお客さんですから、むげに扱ったりしないはずです。

その記事に対する感想を述べ、自社の取り組みや、いまPRしたいネタとの関連性を説明します。

でも、これだけなら多くの広報担当者がやっていることでしょう。残念ながら、これではまだ立場を対等に持っていくところまではいきません。

「実はあの記事の中に出ていた牛丼店に私も昨日早速行ってきたんですよ!」

記事を読んだだけではなく、記事で紹介した店に実際に足を運んでみた、というのも強烈なアピールの一つです。一読者の域を出て、ワンランク上の読者だと思わせるには、「私はあなたの記事に影響を受け、行動を起こしました」とアピールするのが大事なのです。

記者は自分の記事に読者が影響されて何らかの行動を取ったと知れば、必ずうれしく感じます。仕事にやりがいを感じる瞬間でもあるでしょう。

「いったい何者?」と思わせるコツ

「でも、意外なことに年配のご夫婦も3組いたんですよね」

相手を喜ばせておきながら、いきなり水を差すような発言です。

相手の感情が高ぶった状態のときに、「でもね、あなたはこんなところを見落としていましたよ」と、取材をしたその記者でさえ気付かなかった点(現場での現象)をそっと指摘すると、完全にワンランク上の読者と見てくれます。この瞬間に立場は対等になるのです。

栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)
栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)

そこから本題(ネタの売り込み)に入れば、真剣にこちらの話に耳を傾けてくれるでしょう。私はいつもこのやり方で電話をかけています。

出だしは「また売り込みか」とばかりに面倒くさそうに「はあ」「はい」と対応していた相手が、だんだん身を乗り出すような雰囲気になり、最後には「あなたは一体何者なんだ?」というように完全にこちらに興味を示す姿勢に変わっていきます。

ただし、高飛車な印象を与えない話し方を心がけなくてはなりません。

「教えてあげるよ」という態度になると、相手のプライドを傷つけてしまいます。あくまでも、一読者として、「そういえばこんなことがありました」と報告するように伝えるのです。電話での売り込みでも、確実に成果を出すためのやり方があるのをわかっているのといないのとでは、おのずと結果が違ってきます。時間を無駄にしないためにも、ぜひ実践してほしいと思います。

栗田 朋一(くりた・ともかず)
PRacademy代表取締役

1971年、埼玉県浦和市(現・さいたま市)生まれ。明治学院大学社会学部卒。歴史テーマパーク「日光江戸村」を運営する大新東で広報を担当し、江戸村及びグループ会社全体のコーポレートPRを手がける。2003年に電通パブリックリレーションズに入社。その後、07年にぐるなびに転職し、広報グループ長を務める。現在は、自身で立ち上げたPRacademyの代表取締役を務める。著書に、『現場の担当者2500人からナマで聞いた 広報のお悩み相談室』(朝日新聞出版)がある。