忖度しすぎ、丁寧すぎる答弁書

朝比奈さんは、官僚を早く帰らせ、形式的に残業時間だけを減らそうとすると、仕事の丁寧さが失われ、ミスが増える要因にもつながると懸念する。まずは、仕事を減らさなければならないという。

「国会の答弁書など、官僚が丁寧に作りすぎるんです。もちろん、適当に答えてというわけにはいかないですが、国会は大臣と国会議員が議論する場なんですから、『こういう形で答弁してください』と参考にメモを渡す程度でいいはず。でも実際は、大臣が読み上げるための文章一言一句を官僚が作っている。さらに、『この大臣は細かい字が読めないから14以上の巨大なフォントで作りなさい』などといった指示まである。官僚側の問題でもありますが、『念のため』と忖度しすぎて、ほとんど使われないような資料までも入れている」

労働時間を減らすには、役所の幹部や大臣の世話、調整プロセスにかける時間を減らして簡素化することが必要だと、朝比奈さんは指摘する。そうすれば、もっと政策の中身の議論に時間をかけられ、若手官僚もやりがいを持って仕事ができるはずだというのだ。

前述の玉木議員も、今起きている霞が関からの人材流出は、現場からの反乱を意味しているのではないかという。

「官僚に勤務環境、時間、家庭を犠牲にすることを強いて、わが国の政策立案は成り立っていた。それがもう耐えられなくなってきたんですよ。『変えられないなら去るしかない』と、多くの人が役所を去り始めている。この動きに対して、政治家はもっと敏感にならないといけない」

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。