新型コロナウイルスの感染拡大で事態が急変。会社に電話が相次いだ

事業化は難しいことがわかったが、東京オリンピックに向けて準備を始めた矢先、事態は急転した。2020年1月末ごろから新型コロナウイルスの感染拡大が危惧され、平田さんのもとへクライアント企業からの電話が相次ぐ。

「派遣テレワークを至急検討しなくてはいけないので、どうしたらいいですか」という問い合わせだった。

コロナ禍が広がるなか、感染者が出たビルは業務停止となる。各社では全社員へのテレワーク導入が急務となったが、コロナ前から準備が整っていたことが功を奏し、スムーズに対応できた。かつて1%ほどだった派遣スタッフのテレワーク率が緊急事態宣言下で48%まで伸び、東京では62%となった。

リクルートへ入社してから35年、さまざまな働き方を模索してきた平田さん。それぞれ事情を抱えて働く人たちに寄り添う仕事にはこんな思いもあったと振り返る。

「自分は少数派という気持ちがずっとあったので、見過ごされがちな声には過敏かもしれません。私は高校が進学校だったので、卒業後に就職したのは自分一人きり。会社へ入ったときも高卒採用は少ないから同期がほとんどいない。最初に配属された情報システム部でも皆はイキイキと働いているのに、私は全然できなくて落ちこぼれでした。でも、営業で成果を出せたときに初めて、自分にも向いていることがあるんだとわかったのです。人材ビジネスも最初は向いていないと思ったけれど、やってみたら楽しかった。誰しも必ず自分を活かせる場所があることを信じているし、自分ができることがあるとあきらめないことが大切だと思っています」

2018年4月に大学院へ進学。楽しく働きつづけるために

平田さんは大学で学ぶ夢もあきらめなかった。2018年4月から法政大学の社会人大学院へ進学。越境学習の研究に取り組み、「会社員の副業」をテーマに修士論文を書いた。越境学習とはビジネスパーソンが所属する組織の枠を自発的に越境し、自分の職場以外に学びの場を求めること。そこで素の自分を見つめなおすことが、キャリア自律にもつながるのではないかと考えたという。

リクルートスタッフィング スマート推進室長 平田朗子さん

では、「ジャーナリストになりたい」という夢はどうなったのか。気になって聞いてみると、「社会に向けて、何か言いたかったのだと思うんです」と平田さんは振り返る。でも、働いていると仕事の現場でそれが実現できるし、論文を書くことで伝えられることもあったという。これからも多様な場で自分の思いを発信し続けることだろう。

「会社員は年齢を重ねるほど大変だとも思っていました。仕事もマンネリ化してしまうし、新しいチャレンジもしなくなる。長く楽しく仕事をし続けるのは意外と難しいのです。でも、大人がイキイキと働いていないと若い人も希望を持てない。だから、自分としては最後まで楽しく働くことを目標にしているんです」

今は社会人がチームを組み、社会活動をサポートするプロジェクトを運営するNPO法人でコーディネートの副業にも携わっている。さらに組織を越えて、自分を活かせる場を見いだしていく姿に女性たちの新しい働き方も見えてくるようだ。

歌代 幸子(うたしろ・ゆきこ)
ノンフィクションライター

1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。