部下によってアプローチを使い分ける

部下が新人の場合は、「つべこべいわず、とにかくやれ」「いいから皿洗えよ」といった、指示命令型のほうが、新人の成長が速かったりもします。

部下がチーフなどに成長している場合は、すでに目標の意味も理解し、放っておいても成果が出せるくらいに自立していたりするので、説得型の「なんでやるかわかるか?」といった話は鬱陶しく感じられたりもします。

成長した部下には、むしろ「飲み行こうか」といった参加型のアプローチのほうが心地よかったりもしますが、仕事の目的も理解し、心のケアもできている部下には「飲み行こうか」といっても「いや、忙しいんで」と断られることも多いです。

いっそ「すべて任せた」「何か困ったことがあったらいってね」といった委譲型の放任主義のほうが、伸び伸びと仕事ができて、部下は成果を出しやすかったりもします。

結局、どれが正しいのかというと、残念ながら正解はありません。マネジメントやコミュニケーションのスタイルは、相手によって変える必要があるのです。

「評判のいい人材」とは

仕事ができる部下に「なんでやるかわかるか?」「やったか?」と、いちいち説明や確認をしたりしても、「勝手にやるから放っといてくれよ」と思われるだけです。

かといって、仕事ができない部下に対して「よきにはからえ、くるしゅうない」といって、放置しているだけでは、部下は何もせず、成長もできません。

相手や状況を見極め、TPOをわきまえた適切な言動ができる。こういう人が「評判のいい人材」といえるでしょう。

人には、持って生まれた資質やパーソナリティがあります。さまざまなコミュニケーションの方法を使い分けるのはかなり高度なスキルですが、苦手なマネジメントの方法もある程度ケアをしておくことは大切です。

コア人材やスペシャリストとして高い評価を得ている人は、自分の弱みが致命的にならない程度に克服し、「強み」をより伸ばすことに注力しているものです。

まずは自分がどのタイプなのかを認識し、自分に欠けている要素を客観的に理解しましょう。

そして自分が「指示命令型」だったら、正反対の「参加型」を意識してみる。「説得型」だったら、相手によっては「委譲型」を取り入れてみる。このようにしてマネジメントやコミュニケーションの幅を広げていくのです。

最初はすぐにうまくいかなくても、部下も同僚も上司も、人の変化は意外とよく見ているものです。

「自分を変えよう」「もっと成長しよう」としている人は必ず評価されます。

西尾 太(にしお・ふとし)
人事コンサルタント、フォー・ノーツ代表

「人事の学校」「人事プロデューサークラブ」主宰。1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリエイターエージェンシー業務を行なうクリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。著書に『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)などがある。