変化についていけない男性の「メンズ・クライシス」
しかし、自分たちに使い勝手の良い「同質性」の人材を育てておいて、「いらなくなったら捨ててしまえ」というのは乱暴すぎます。特にミドル以上の世代は、妻は専業主婦かパート主婦という家庭が大多数ですから、一家の大黒柱が大量に解雇されたら日本の社会全体が不安定になるでしょう。リストラするにしても、心構えとキャリアの棚卸しぐらいはしてからにして欲しい。ミスマッチな仕事についた「不機嫌なおじさん」が社会に大量にばら撒かれても困ります。
京都産業大学教授の伊藤公雄さんは「労働の仕組みや家族の多様化」などの変化に、「ついていけない男性」たちが増加していることを指摘しています(※8)。「キレる中高年男性」問題などはまさにそれです。男女平等な社会ではすでに問題となっている「メンズ・クライシス(男性危機)」です。スウェーデンでは1986年から全国30カ所の「男性のための危機(メンズ・クライシス)センター」を作って男性からの相談に対処しています。それほど社会にとって大きな問題なのです。
おじさんには、まだまだ伸び代がある
お尻に火がついている当事者はもちろん、企業の経営者や人事には、「社内のミドルシニアを『変化に対応できる人材』にする方法」を真剣に考えていただきたいのです。
イノベーションを起こす会議を仕掛ける、ある専門家が言っていました。「企業に行くと、うちは年齢の高い男性ばかりで多様性がなくて、イノベーションが起きないんです、とよく言われます。でも本当はその人たち一人ひとりが個性を発揮できれば、多様なんですけどね」と。
日本型組織の中には確かに「同質性の高いおじさん」がたくさんいますが、本来は誰もが多様な一人の人間です。ただ、これまでメンバーシップ型雇用と昭和的風土にどっぷり浸かって「企業戦士」養成ギブスをはめられ、組織の行動規範に従うことを要求された結果、会社と自分が同化してしまっているのです。
ミドルシニア自身の行動や意識改革ももちろんですが、会社がおじさんたちの行動を変える仕組みや仕掛けを用意すれば、そこにはまだまだ伸び代があるはずです。
パナソニック代表取締役、専務執行役員で、社内カンパニーのパナソニックコネクティッドソリューションズの樋口泰行さんに取材したとき、「45歳以上の男性中心の組織は、改革が進みにくいのでは」という質問にこんな答えが返ってきました。
「物理的な年齢構成を変えられないなら、精神年齢を若く保つ。それが組織を活性化する唯一の解ではないでしょうか」。私はこの言葉に、日本企業再生のヒントがあると感じました。
[8]伊藤公雄「男女平等に『怯える男たち』をケア…男性危機センターの大切な役割」現代ビジネス 2019年4月4日
1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。