電車に乗って会社に行くことや、人と会うことが仕事ではない

——ツイッターではまた、新型コロナウイルス感染拡大の自粛期間中、引きこもりがちなタイプなのでステイホームのストレスが少ないとつぶやいていましたね。以前は世間的に「外に出て見識を広めるのが良し」と言われがちだったものが、思う存分家にいていい状況になり、内向的なタイプの人間には前向きな変化が世の中に起きたと感じています。コロナ禍を経て、作家としての意識に変化はありましたか?

山崎ナオコーラ『肉体のジェンダーを笑うな』(集英社)
山崎ナオコーラ『肉体のジェンダーを笑うな』(集英社)

【山崎】これまでは電車に乗って会社に行き、会議に出たり、人と交わったりすることが「仕事」だという漠然としたイメージを持っている人が多かったと思うし、そうでない人でも「仕事」や「社会人」という言葉を聞くと、そういうことをしている人をイメージする人が多数派だったと思います。それがコロナ禍によってオンラインでやり取りをしたり、家でもこれまでと違うツールを使って仕事を進めることができるようになり、「仕事」や「社会人」のイメージが変わった。

主婦も社会人だし、作家も社会人。引きこもりの人もそう。「社会を動かしている人は、みんな社会人なんだ」ということを、この自粛生活を経て、すごく思うようになりました。家の中の出来事を書くだけでも「社会派作家」としてやっていけるなと、扉が開けた気がします。

家の中にも社会があるし、肉体の中にもある。たとえば、自分の「鼻」に対するイメージを考えた時、自分の頭の中だけのイメージではなく、社会に漂っている人間の鼻のイメージでしか、自分の鼻を思い描けない。おっぱいにしてもそう。人間として生まれたからには、社会としての肉体しか持てない。だから体について考えることも、社会派作家の仕事なのだと思うようになりました。

——外出自粛生活が長引き、家事・育児など、女性への負担が増加していると報じられています。真面目な女性の中には「こうあるべき」という思い込みも強く、あれもこれもと頑張りすぎてしまう。そんな読者にアドバイスをお願いします。

【山崎】性別を意識することで輝ける人は、それを意識したほうが断然よいと思うんです。負担にならない性の意識は持ったほうがいい。でも、負担に感じているようなら、立ち止まって考えることをお勧めします。家事の負担が苦しいという悩みは、自分1人が我慢すればいい話ではなく、立ち止まって考えることで社会が変わっていくかもしれない。個人的な話ではなく、社会の問題なのだというつながりを考えてみることで、楽になることもあるのではと思います。

構成=新田理恵

山崎 ナオコーラ(やまざき・なおこーら)
作家

作家。親。性別非公表。『人のセックスを笑うな』でデビュー。著書に、育児エッセイ『母ではなくて、親になる』、容姿差別エッセイ『ブスの自信の持ち方』、契約社員小説『「ジューシー」ってなんですか?』、普通の人の小説『反人生』、主夫の時給をテーマにした新感覚経済小説『リボンの男』など。