男性も女性も月経についてよく知らない

【村瀬】大学生に「なぜ月経痛がおきるのかわかる?」とたずねると、女子もわからない。男子は月経と排卵の違いもわからない。その状態で性交体験は30%です。

月経の仕組みについて授業をした後、ある男子学生がこんなコメントを寄せてくれました。

「バイトでお金を貯めて、彼女と遠出しようと思ってデートしたら、彼女がなんとなく元気がなかった。約束したから来てくれたけど、ついには帰りたいと言ってきた。『こんなに準備をして楽しみにしていたのに』と言ったら、『ごめんなさい』と言って帰ってしまった。ムカついてしょうがなかった。だけど、今日の先生の話を聞いて、彼女はPMS(月経前症候群)だったかもしれないと気がついたので、彼女に謝らなければいけないと思う。これからは、そういうことがあったらちゃんと言ってねと伝えたい。性を学ぶということは、こういうことなんだってことがわかった」

これほどまでに、男は無知なんです。でも、きちんと知ることで、相手との関係性が大きく変わるんです。

【太田】「彼女が生理だから今日はエッチできない」という文脈でしか月経について知らない男性は多いですよね。一部には、生理用品を卑猥なエログッズとして扱うような男性もいるそうです。生理現象として科学的に教えられていれば、生理用品をそんなふうに扱うようなことにはならないと思うのですが。

基本は「科学的に理解すること」

【村瀬】日本では、「科学的に人間の体を理解する」という性教育のベースが貧しいままです。ヨーロッパなどでは、生物や理科で人間の生殖を扱っているところも多いですね。オランダの教科書を翻訳した『14歳からの生物学』という本が出ましたが、その中では性への関心や避妊なども、人間の生殖の中でしっかりと取り上げています。日本の場合は「人間」が避けられていると思われるほど扱いが少ないのが現状です。

村瀬幸浩さん
撮影=プレジデントウーマンオンライン編集部
村瀬幸浩さん

【太田】学校の性教育を変えるには学習指導要領の改訂への働きかけも必要ですが、一方で、教育は今すぐに変わるものではないので、わが子には間に合わないという方も多いと思います。子どもの成長は速いので、あっという間に適齢期を逃してしまいます。現状では、自己防衛として、親が教えていくことを考えないと。

今は、良い書籍がたくさん出ているので、家庭でそういった漫画や本を活用したりできます。また、PTAで性教育に関する講演会や勉強会を企画してみたりと、具体的に行動に移していけば、同じ思いを持つ人が増えて、日本全体の空気も変わっていくのではないかと期待しています。

最初の一歩は、親である私たちが学ぶところからですね。

【村瀬】大人があらためて「性」について学びなおし、子どもが幸せに生きていくためにどんな手助けができるかを考えてほしいですね。

構成=太田 美由紀

村瀬 幸浩(むらせ・ゆきひろ)
元高校教師、性教育研究者

東京教育大学(現筑波大)卒業後、私立和光高等学校保健体育科教師として25年間勤務。この間総合学習として「人間と性」を担当。1989年同校退職後、25年間一橋大学、津田塾大学等でセクソロジーを講義。従来の性教育にジェンダーの視点から問題提起を行ってきた先駆者。一般社団法人“人間と性”教育研究協議会会員。著書に『恋愛で一番大切な“性”のはなし』、共著に『おうち性教育はじめます』など多数。

太田 啓子(おおた・けいこ)
弁護士

2002年弁護士登録、神奈川県弁護士会所属。離婚・相続等の家事事件、セクシャルハラスメント・性被害、各種損害賠償請求等の民事事件などを主に手がける。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。2014年より「怒れる女子会」呼びかけ人。2019年には『DAYS JAPAN』広河隆一元編集長のセクハラ・パワハラ事件に関する検証委員会の委員を務めた。共著に『憲法カフェへようこそ』(かもがわ出版)、『これでわかった! 超訳特定秘密保護法』(岩波書店)、『日本のフェミニズム since1886 性の戦い編』(河出書房新社、コラム執筆)。著書に『これからの男の子たちへ』(大月書店)。