「女性誌にAV女優出すのをやめてほしい」
宝島社発行の女性誌『sweet』のキャッチフレーズは「28歳、一生“女の子”宣言!」。ファッションやメイクなどの情報が満載で若い女性に人気の雑誌だが、そのweb版の一部記事が先日大きな反響を呼んだ。
女性誌にAV女優出すのもやめてほしい。性の悩みは産婦人科医に相談すべきであって、間違っても売春婦に相談してはならない。宝島社の編集者は女衒か何かか? https://t.co/kTZpoc1bHl pic.twitter.com/woSHjdRqt8
— えっこ (@i_am_ecco) June 1, 2025
それはセクシー女優・河北彩花さんが同誌内で始めた「女のコが誰しも抱えるセックスレスやテクニックの上達など……夜のお悩み」に答える読者相談コーナーの告知。編集部がXに投稿したところ、「女性誌にAV女優出すのもやめてほしい」「性の悩みは産婦人科医に相談すべき」とのリプライがあった。この主張に1万9000の「いいね」がつき、波紋を巻き起こした。
他に「セックスワーカーを差別すべきではない」との声もあったが、ほとんどのリプライがAV女優による指南に違和感を表すものだった。ただ、AVに出演する女優・男優によるこのようなメディアやネット上の活動は珍しくなく、中には、通常のモデル・俳優として露出し、自分でプロデュースする商品を売り出すケースもある。そして、そのようなタレント活動はこれまで総じて好意的に受け止められていたように思える。
しかし、こうした現象は日本の性教育をめぐる深刻な問題、もっと言えば、男女の分断や、若者の非婚化・少子化への悪影響を浮き彫りにしている。
世界標準から大きく逸脱する日本の現状
欧米では、性教育に携わる人材には極めて厳格な要件が課されている。アメリカの性教育者アニー・スプリンクルは、元セックスワーカーでありながら「ヒューマン・セクシュアリティ」で博士号を取得した専門家だ。アメリカや欧州で正式な性教育者として認められるには、教育学、医学、保健学、心理学や性科学などの関連学位取得、専門機関での研修・認定、実務経験の蓄積などのプロセスが必要だ。
一方、日本の性教育の現状は、国際的な基準から大きく立ち遅れていると言わざるを得ない。ユニセフをはじめとする国連機関が策定した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」は、世界各国の性教育政策の指針となっているが、その内容は極めて包括的だ。
1.人権とジェンダー平等:性教育を人権やジェンダー平等の枠組みで捉える
2.人間関係:健全な関係性の構築方法
3.価値観・人権・文化・性のあり方:多様性の尊重
4.ジェンダー理解:ジェンダーアイデンティティと表現
5.暴力と安全確保:性暴力の防止と対処
6.健康とウェルビーイング(単に病気がない状態だけでなく、身体的・精神的・社会的に「良好で満たされた状態」を指す概念)のためのスキル:自己決定能力の育成
7.身体と発達:身体的・性的発達の理解
8.性のあり方と行動:責任ある性行動
このガイダンスによると、5歳から18歳以上まで年齢に応じた段階的な学習目標を設定し、科学的に正確で発達段階に適した内容を提供しなければいけない。さらに重要なのは、包括的性教育が単なる知識の伝達ではなく、子どもや若者が自分と他者のウェルビーイングや権利を守る力を身につけることを最終目標としている点だ。
こうした包括的性教育によって、初交年齢が遅延し、性感染症や望まない妊娠が予防され、性暴力が減少するなど、大きな効果が出ているという。