EU離脱「しか」できない内閣なのか
しだいに、ボリスはEU離脱と移行期間中の交渉を邪魔されずに進めるため、政治能力は二の次で自分の味方だけを周りに配したという見方が定着してきた。ワントリック・ポニーという言葉が英語にはあるが、これは一つしか芸(トリック)がないサーカスの子馬を指す。今の政府はこのポニーに喩えられている。長期間かけて計画したEU離脱は実行できるが、計画外の事態には何一つうまく対応できない内閣。
そんな評を振り払うかのようにボリスの活動は活発になり、保守党のヴァーチュアル年次総会の基調講演では、まず自分ネタのジョークで参加者を笑わせた。
「コロナが私のMojo(モージョー=魔法の力)を奪ったという噂がありますが、それは私たちが失敗すればいいと思っている人たちのたわ言にすぎません。たしかに重症になりひどい目に遭いました。でもそれはですね……私が太りすぎていたからだったのです! あれから11キロも痩せたんですよ」
これは、たくさんあるボリスのニックネームの一つBojo(Boris Johnsonの名前と苗字の最初の2文字をくっつけてボージョー)とMojoをかけたシャレだ。
復活した「ボリス節」
ボリスが自慢する「魔法の力」の一つは、自分に反感を持つ人と話すのが得意なことだ。実際に、私の知る社会派ジャーナリストには、ボリスに密着取材する機会を得たので必ずや質問攻めにしてギャフンと言わせようと勇んで出かけたものの、半日行動をともにしただけで魔法にかかったようにその人柄に惹かれてしまったという人がいる。
オンラインで聞き入る聴衆を、このMojoですっかり自分のペースに乗せた後、ボリスは環境政策や産業推進策を矢継ぎ早に打ち出した。
「母なる大自然は私たちをコロナでズタズタにしました。でも自然界の掟に沿って私たちはよりグリーンに立ち直るでしょう。そして、この政府こそはそのグリーン産業革命を推進するのです」
過去には「役立たず」とこき下ろしていた風力発電が突然ここで登場した。それは、北イングランドとスコットランドの沖合にオフショア発電所を建設して6万人分の雇用を生み出し、これからの10年間でイギリスのすべての家庭において風力から作られた電力が使われるようにするという計画だ。
スピーチでは、キャッチーなフレーズやシャレもちりばめられており、以前のボリス節が復活している。さらに、年次総会後の10月5日にはすでに稼働している風力発電所を訪問した。報道陣のカメラに向かって電気自動車のチャージャーを構えておどけたポーズを見せる様子には以前の快活さが感じられた。