※本稿は栗田路子・プラド夏樹・田口理穂・冨久岡ナヲほか3名による『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
感染後、別人のように変わった首相
学校が段階的な再開を始めた2020年9月には自宅勤務から出社組に戻る人も増え、街には少しずつ活気が戻り始めた。ところがその途端に感染者数が再度増えだした。1カ月ぶりにテレビ画面に登場したボリス・ジョンソン首相のスピーチを聞いて国民は耳を疑った。
「……私もみなさんも、すでに実施されている規則が守られるよう、より強力な取り締まりを望んでいるのです。このため、地方自治体の権限を増強し、繁華街などにCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)安全係官を配置します。違反を見逃す店には罰金も科します」
すでに自主的に見回りを行っている自治体はあったが、首相の表現はまるで旧東ドイツの秘密警察シュタージの再来ではないか。フランス、ドイツ、イタリア、スペインなどと違い、近代から今までに一度も独裁者を出したことのないイギリスにはなじまないやり方だ。自由主義を愛するボリス自身が一番それをわかっているはずなのだが。
さらに9月下旬には、やっと活気を取り戻しかけた外食業界にまたしても、飲食店の営業時間は22時までという足枷がはめられてしまったが、納得できる科学的根拠は一向に説明されなかった。
言うまでもなく、リーダーとしてのボリスへの支持は下がり始めた。長年のサポーターたちまで「この男はもはや、自分たちが一票を入れて未来を託した人物ではない」と言いだした。「コロナの後遺症で慢性疲労では?」という噂は今や「脳にダメージを負ったに違いない」というレベルにまで上がっている。追い打ちをかけるように、首相を取り巻く大臣たちも財務大臣を例外に失敗策ばかり打ち出していた。