名将・野村克也氏の1周忌を迎え、このたび事務所の全面協力により、その名言から厳選したベスト・オブ・ベストともいえる金言集『頭を使え、心を燃やせ』がセブン‐イレブン限定書籍として刊行された。同書より野村監督が私たちに残した「教え」を振り返る──。(第2回/全3回)

*本稿は、野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

プロ野球日本シリーズ第5戦・ヤクルト―西武/胴上げされる野村監督
写真=時事通信フォト
西武に勝ち2年ぶり4度目の優勝を決め、胴上げされる野村克也監督(東京・神宮球場)=1997年10月23日

「不思議の勝ち」はあっても「不思議の負け」はない

人間というものは、「勝利」や「成功」からは多くを学ばない。私はそう思っている。

勝ったとき、成功したときは気分がいい。だから、その気持ちよさに酔ってしまい、どうして勝つことができたのか、成功できた理由はなにか、深く考えることがない。私自身もそうだった。

しかし、負けたとき、失敗したときは違う。徹底的に考えた。どうして負けたのか、なぜ失敗したのか、どれだけ時間がかかろうと敗因を突き詰めた。

勝利には、運や偶然に作用された勝利、私にいわせれば「不思議の勝ち」が存在する。対して、「不思議の負け」はない。必ず負けに至った理由がある。

たとえアンラッキーに見えたときも、しっかり分析していけば、それを招いた原因がどこかにあるはずなのだ。つまり、やり方を間違えたから負けたのである。

「反省」できるのは「弱者の特権」

とすれば、負けたから、あるいは失敗したからといって、へこたれたり、嘆いたり、気分転換をしたりする前に、敗因を追及し、修正・改善することが非常に大切になる。そうやってきちんと反省すれば、同じてつを踏むことは格段に少なくなり、勝利する確率、成功する確率が上がるからだ。

野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)
野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)

負けや失敗を認め、振り返るのはつらく、気分の悪いことかもしれない。だが、反省とはなにに向けてするのか。未来に向けてである。過去に向かってすると思うからいやな気持ちになるのだ。よりよい未来を手に入れるために反省するのだと考えればいい。

そもそも、反省できるのは弱者ならではの「特権」である。

弱者だからこそ、そういう機会に多く恵まれる。失敗が重なるということは、それだけ成功が近くなるということだ。失敗をかてにする経験が積み重なっていくことで、結果から学ぶことの少ない勝者・強者に追いつき、追い越すことは決して不可能ではなくなるのである。

私自身、決して強者ではなかった。だから現役時代も、監督になってからも、敗戦や失敗を数多く体験した。しかし、そのたびに敗因を追及・分析し、対策を練った。その蓄積が、私を一流と呼ばれる選手にし、監督として弱小チームを強者に変える力を与えた。

弱者だったから、私は負けや失敗を味方につけることができたのである。