一方、小腸の先にある大腸にはパイエル板はありませんが、約1000種類100兆個もの微生物が住んでおり、腸内フローラを形成しています。大腸に住むビフィズス菌をはじめとする善玉菌には免疫細胞を活性化したり、調整したりする働きがあり、感染症の罹患りかんや重症化のリスク低下にも一役買っています。小腸のみならず、大腸もまた免疫力や全身の健康に深く関わっているのです」

小腸はディフェンダー、大腸はゴールキーパー

小腸ではパイエル板の働きでカラダに入ってきた有害な菌を迎え撃つが、それもくぐりぬけて大腸に到達するものがある。しかし、有害な菌がつくり出す毒素が腸壁の粘膜を抜けて血管に入り込まなければ発症はしない。そのバリアとなるのが、大腸の善玉菌の代謝物である短鎖脂肪酸の働きでつくられるムチンという粘液だ。健康な腸内細菌を持つ人であれば、ムチンが腸壁を保護して有害菌の侵入をブロック。便と一緒に排せつされる。サッカーで例えるなら、小腸は有害な菌を迎え撃つディフェンダー、大腸は毒素の侵入を防ぐゴールキーパーの役割だ。

「近年研究が進んでいるのが、この短鎖脂肪酸という物質です。酢酸、酪酸、プロピオン酸の3つが代表的で、腸内の代表的な善玉菌であるビフィズス菌は酢酸と乳酸を大量につくり出すことが知られています。短鎖脂肪酸には腸管を守るだけでなく、腸管から吸収されて全身に働きかけて脂肪の蓄積を抑えたり、脂肪を燃焼させたりする効果があることもわかってきたのです」(松井先生)

攻撃系と制御系の免疫のバランスがカギ

大腸劣化度チェックシート

病気にならないカラダをつくるには、免疫力を高めればいいと考えがちだが、免疫力が過剰に働きすぎるのもよくないという。現代人に増えているのが、免疫が「暴走」し、本来攻撃する必要のないものまで攻撃してしまうことで起こる花粉症やアトピー性皮膚炎、自己免疫疾患だと内科医の桐村里紗先生は指摘する。

「新型コロナウイルス感染症の重症化例の1つの原因として考えられているのが、免疫反応が暴走することで過剰な炎症を引き起こす、サイトカインストームという状態です。免疫の暴走は免疫力が低い高齢者よりも、若い人に起こる確率が高いといわれます。免疫力は高ければいいというわけではなく、攻撃と制御のバランスが大切なのです」

免疫細胞の暴走を抑える唯一の調整役が、制御性T細胞(Tレグ)と呼ばれる免疫細胞。最近の研究では、腸内細菌の一種である善玉のクロストリジウム属の細菌がTレグを増加させることがわかってきた。クロストリジウム菌は腸内の食物繊維をエサとして短鎖脂肪酸の酪酸をつくるが、この酪酸が若い免疫細胞に伝わるとTレグへと成長するのだという。「小腸の免疫力をコントロールしているのは大腸に住む腸内細菌です。小腸は免疫に対してアクセル、大腸はブレーキの役割で調整しています。健康的な毎日を送るには腸内フローラを整えることが不可欠なのです」(松井先生)